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第12章「木のチカラ」を使う者
「あれ? あれって何すか?」
―ポンコツにくれてやった闇のチカラは、標的がどれだけ遠くいても光って見える。あたりを見回してみよ。
徳男は言われるがまま、360度見回してみた。
「ん? なんか、あそこ光ってんな。竹取物語っぽいけど」
ーただし、普通の人間には見えぬ光だ。ただし、近付けは近づくほど、その光は強くなり、10メートル以内になった時、その光は消える。
「ほえ。そういうもんか」
ー親切設計だ。ありがたく思え。
「いちいち恩着せがましいよな…」
ー黙れ、感謝しろ。ともかく、一番目の標的は、「木のチカラ」を使う者である。それも、極々近くにおる。
「木のチカラ? 木にチカラなんてあるんすか? 火つけて燃やしたら勝ちじゃないっすかね?」
―ならば、さっさと行って、片付けて来い。じゃあの。
それきり、ライトマンからの声は聞こえなくなった。
「ちっ、マジなんなんだよ。この状況……。しょうがねえ、光の方向へ進むとするか」
徳男は、光を放っている方向へ、トボトボと歩き出した。
「しかし、この真っ黒でのっぺらぼーだと、街をうろついたら間違いなく怪しいよな。5人の光の連中を捕まえる前に、オレが捕まってしまいそうだ」
小屋を出てからどれだけの時間が経ったか分からない。
少しずつ、辺りが暗くなってきた。
ところが、暗くなっても視界が全く悪くならない。それどころか、暗視スコープの様に、光の発光体がより一層、鮮明に見えるようになってきた。
「暗黒の存在だから、暗闇になると余計に力が湧くってか。夜行性のオレにはちょうどいいかもな。なんだっけ、あのライトマンとか言うヤツ。案外、見る目があるのかもなあ」
そんな様な事を考えながら、同時に、徳男はふと、自分の能力を確かめようという気になった。
少しずつ、何か見覚えがある風景の様な気がしてきた。
「ん? これは?」
小屋を出た時に見た、首吊りっぽいヒモが掛かっていた木だった。
「あ、あれ? これは。見た事ある気がする。ということは、あの小屋に近いな」
徳男は思い出した。
そうなれば、またあの小屋に戻って、それまでに食べれなかったものも食べれるであろうことを。
「ていうか、あの小屋が光っているとすれば、あの中に『木のチカラ』を持ったヤシがいるってことか?」
もし、対象となる逃亡者と遭遇してしまったら?
「それって、バトルが始まるってことか?」
ブル、ブルブルブル
「つーことは。リアルファイトするってこと? はぁ? そりゃ無理ゲーじゃねえの?」
徳男は薄々感じていた。
表向き、ストリート伝説内で無敵を誇る自分の技が、現実でも通じるモノと思い込ませていたが、それこそ、自分の思い込み、くだらぬプライドを保つための「方便」であることを。
次第に、恐くなってきた。
「いや、マジで。さっき、すげぇジャンプできたけど、パンチ力とかどうなんか」
眼の前には、首吊りヒモのかかっている大木。
「これ、殴ったらどうなるんだろ? まさか、折れるとかか?」
今までに比べて体型も変化している。それに、ジャンプ力の凄まじさは証明済である。
「とりま、やってみるか……」
―うむ。ポンコツのお前が一番弱い「木のチカラ」の「コダマ」にさえ殺されてしまったのでは、今まで費やした時間が多少無駄になるからな。チカラの解放の仕方を教えてやろう。
急に、ライトマンの声がした。
「なんだ、一番弱いのかよ。んじゃ、そんなチカラとかいらねえんじゃねえの?」
―愚かな……。一番弱いと言っても、おまえたち人類の中では最強なのだが……。まあ、いらぬのなら、教えてやらんが。
「は? 今なんつった?」
―人類の誰よりも強いのだ。コダマはな。光の一族の中では最も弱い雑魚だが。
「いや、あり得ねえだろ……。人類より強いヤツと戦えとか……」
―あ、やめる? やめちゃう? いいよ、別に。また別のニート連れて来るだけだから。あー、残念だったな。鉄の処女で生き残る「選ばれし者」なんて滅多にいなかったんだけどなぁ。
ライトマンは、なぜかぞんざいな口ぶり、というかツンデレで通告してきた。
だが、そのアゲ振りは、それまで褒められたことのない徳男の自尊心をくすぐるのに十分だった。
徳男は珍しく、「えへへ」と笑った。とはいえ、顔がないので笑っている様子は外見では分からないのだが。
「え、選ばれし者なんだ、オレ。じゃあ、しょうがないなあ。教えてもらっても良いけど?」
―ならば教えてやろう。右手を出せ。そして拳を握って、胸の高さまで拳を引け。
ライトマンに言われるがまま、徳男は右手を出して拳を握って、空手の構えの様に拳を胸の高さに構えた。
「こ、これで良いか?」
―まあ、ド素人にしては上出来だ。そして、眼の前の木に、憎悪のエネルギーを燃やせ。
無茶ブリとしか思えない様なアドバイスを与えてきた。
「急に、憎悪を燃やせって言われてもなぁ。オレ、今までぼんやり生きて来たから、憎悪と言われてもなぁ」
徳男のそれまでの34年間。
困難を避けて生きてきた。
何ら具体的な目標、目的も持たず、努力を惜しみ、苦痛から逃げてきた。
その結果、憎しみという感情を持つことが、どういうことか分からなかった。
―分からぬのなら、教えてやろう。ポンコツを捨てた両親のことを思い出せ。憎くはないか? 殺したいと思わぬか?
「そういえば」
徳男は思い出した。ここ数日間、とにかく生きる事だけを考えて、さまよって来たことを。
その元凶となったのは、言うまでもない。自分を捨てた両親だ。
「ママ……。会社辞めた時も、ずっとあなたの味方よって言ってくれたのに。オレを捨てるとか。裏切りやがって!」
急に、母親への憎悪の念が燃え上がってきた。とはいえ、自業自得なのだが、このニートにその様な発想があるはずもない。
「ママのバカぁっ!」
徳男は、樹海の中心でバカと叫んだ。
―おお、その調子だ、ポンコツ。見よ、その憎悪のエネルギーを右拳に集中させよ。そしてそのまま、大木に向かって放て!
「うわああああああ、ママの裏切者おおおおおおおおっ!」
徳男は泣きながら、大木に向かって右拳を突き出した。
ドオン
その真っ黒い拳から放たれた猛烈な黒い衝撃波は、軽々と巨木を打ち抜き、その穴から向こう側が見えた。
「え? な、何だこりゃ? もしかして、オレ波動拳打った? いや、それこそかめはめ波出ちゃった?」
―ほう。やればできるではないか、ポンコツ。その勢いだ。では、まずコダマを倒してこい。
それきり、ライトマンの声は聞こえなくなった。
「お、おい。これだけ? これだけで戦えってか?」
若干、心もとないが、それ以降、何度問い掛けても声は聞こえなくなった。
「うむ……。この必殺拳、ネーミングどうしようかな」
徳男は、34年の人生で、初めて「自分で考える」という作業を始めた。
「パクリはイヤだな。波動砲は、ヤマトか。波動拳はパクリそのものだし。かめはめ波は、世界的な漫画そのまんまだしなあ」
どうでも良いようなことを、しばらく考え続けた。
が、そのソースは全て、漫画やアニメ、ゲームなのだ。
「暗黒魔砲とか、カッコいいけど。ちょっと言いにくいなあ」
黒とか暗黒とか、そういう名前を付けようと思った。
「黒……。黒竜江省とかいうのが中国にあったな。ちょっとカッコイイな。よし、黒竜江砲にしよう! マジ超いけてるわ」
短くもないし、言い易くもないが、自分ではちょっとカッコイイっぽい技の名前が決まったと、勝手に思った。
徳男は、再び歩き出した。
光が、少しずつ強くなってきていた。
「やっぱそうじゃん。あの小屋から光が出てるなあ」
見覚えのある小屋だ。
そして、イヤな記憶が残っている小屋だった。
「無人だったはずだが? まさか」
重い足をひきずりながら、小屋へと向かった。
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