第14章 第1標的、木のチカラ「コダマ」

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第14章 第1標的、木のチカラ「コダマ」

徳男の目の前に、あの丸太小屋が再び現れた。 「おや? 光が消えたぞ」  どうやら、対象が近くなり、標的が10メートル以内に過ぎると光が消えるというのは、事実のようだ。 「クンクン……。何かを煮るニオイか?」  徳男は、恐る恐るドアの取っ手に手を掛けた。 「……開いてる」  ギィ  中に、男が一人。薪の暖炉と石窯に火がともっていて、そこから何か肉を煮るニオイがしている。 男が、キッチンで、料理をしているようだ。 「ん? 誰だ?」  男が、徳男を見て振り返った。男は、まるで黒い綿菓子のようなデカいアフロヘアの頭に、口髭と顎鬚を蓄えていた。白いコックコートを着て、何かを煮ているかのようだった。 「えっと、あの」  引き籠って以来、家族以外の人間と話すのは、連れ去られた時に続いて二回目だ。  標的が、眼の前にいて言葉が出てこない。 「んー、何だぁ? 全身黒タイツ?」  振り向いた男は、骨付きのモモ肉をいとも簡単に両断できそうな太っとい中華包丁を持っていた。 (こ、これ。メチャヤバいヤツじゃねえの……) 「い、いや、あの、その」  男は、そのヤバすぎる凶器を持って徳男の方に向かって来た。 「ここに生きた人間がいるってことは、あり得ないんだが……。いや、待てよ。あれか、また放り込まれたヤツか」   また放り込まれたヤツ……。    徳男は、ライトマンの言葉を思い出した。 (つーか、もしあの鉄の処女に刺されて死んだら、どうなってたんだろうか。ひょっとして……)  一つの仮説が浮かんできた。だが、それを検証する間もなく、男が迫ってきた。  ヒタ、ヒタヒタ  このままではまずいと思った徳男は、時間稼ぎにトライした。 「あ、あの。コダマさんですか」    ピタ  男の足が止まった。 「んん~、なぜおれの名を知っている? それに、お前のその真っ黒な姿。聞き覚えがあるなぁ」 (ゲ……。コイツ、オレのこと知ってんじゃねえの? 当り前っちゃ、当たり前か。コイツ、ライトマンとか言うヤツの仲間だもんな)  徳男は、玄関のところで腰を引いて、コダマと対峙している。 「えーっと、あの、道に迷ってしまって」  とっさに、口から出まかせを言った。 「はぁ? お前、よくそんなバレバレのウソ付けるよな。どこの世界に全身真っ黒な男が、樹海をウロウロして、道に迷ったとか言うんだよ」  コダマは、ペロリと包丁を舐めた。 常識的に考えれば、極々、当たり前の反応だった。 「い、いやその」  だが、徳男もそこはノープランで臨んでいる訳ではなかった。  不意打ちの、黒竜江砲をぶち込むタイミングを狙っているのだ。 「その、何だ? お前、もしかして、『ブラック・バージン』の生き残りか?」  徳男は、新しく出てきた「ブラック・バージン」という単語に、ちょっと「ん?」と思った。 (新しい単語が出てきたけど、あの鉄の処女のことだろ。生き残ったって、もしかして)  コダマは、包丁をブラブラとさせながら、ニヤリと笑った。 「そうか。あいつ、どこに出たかと思えば。まず、オレを狙って来たのか」  フヒヒと、コダマは笑った。 「んじゃ、お前はオレを捕まえに来たってことか。まあ、相手が悪かったな。このオレが、5人の中で最強だからな」 「え? ホントですか? 話、違うじゃん」  聞いてた話と違うと思った徳男の口から、ついつい本音が出てしまった。 「あ、やっぱりあれか。だとしたら、今すぐぶっ殺さねーとな。他の仲間に迷惑が掛かっちまうからな」  これは、マジでヤバいヤツだと、徳男は思った。  その瞬間、方針転換して逃げようと思った。 「い、いやその。人違いじゃないですかね。あははは。じゃあね。お元気で!」  腰が引けた徳男は、後ずさりして小屋を出ようとした。冗談じゃない、こんなヤベーやつと戦ったら命がいくらあっても足りねえと、徳男は思った。  戦うどころじゃない、逃げるのだ。 「おい、待て。じゃあ、じゃねえよ!」  コダマは、包丁を振りかぶって、徳男目掛けて斬り掛かってきた。 「う、うわあっ! 助けてくれっ!」
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