第16章 脱出と罠

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第16章 脱出と罠

とにかく、このよく分からない屋根裏部屋を脱出しなければならない。 「そういや、どうやってここに閉じ込められたんだ?」  明美は、渋い顔をして部屋の隅を指さした。 「あそこ。見える? あの角が開くようになってて。そこから放り込まれたのよ」  徳男は思い出した。初めてここに放り込まれた時、天井の角が開くような仕掛けになっていたことを。 「……ひょっとして、ここって。そういう場所?」  徳男は、この場所がどういう場所か、次第に分かり掛けてきた。 「ここって、人間が放り込まれて、あいつに食われる場所ってこと?」  コダマが人間ではないことは、ライトマンから聞いていて明白な事実であろうことはよく分かっていた。だが、食人の存在であることは全く聞いていなかった。 「ねえ、ロデム。あんたの両親、ここがアイツの餌場だってこと知ってたのかな?」  明美は、不意に恐ろしいことを呟いた。  徳男は、そう思わないでもなかった。 「……分からないけど。さすがにオレのママ、化物のエサにするためにここに送り込んだと思えないけど」  徳男は、弱々しく答える以外に方法を見付けられなかった。 「そう? まあ、そう考えれば良いと思うわ。どうとらえるかは、それを受け取ったその人の自由よ」  表情を出せない徳男は、複雑な気持ちだった。 「そうだよ。オヤジはともかく、オレはママを信じたい……」 「まあ、そうよね。でも、他人て本当に信じられるのかしら」  明美は、寂しげに呟いた。恐らく、明美は何者かに裏切られ、失望し、その結果、自ら死を選んで、樹海にやって来たのだろう。 「そうか、そうだな。ま、とにかく、ここから脱出だ」 「え? でも、どうやって? 下にはあいつがいるわよ。見つかったら、即座に殺されて、あいつに煮られるか、焼かれるかするわ」  明美は怯えていた。  徳男は不思議に思った。 自ら死を選ぶ覚悟がありながら、なぜ恐れるのだろう。怯えるのだろうか。 「あ、そうか。でも、まあ、オレを信じてくれ。オレには闇のパワーってヤツがあるし。どうやら、刃物で切られても死なないっぽい」 「そうなの? よく分からないけど、助かるなら、今だけは信じるわ」    ずきゅううううううん  生まれて初めての言葉だった。 (お、おれ、初めて。女子から信じられた!)  表情が分かるのなら、ニヤけていただろう。 「よ、よし。じゃあ、行くぜ。あん畜生、ぶっ殺してやる!」  そう言いながら、徳男は右拳に暗黒パワーを送り込んだ。 「行くぞ! 黒竜江砲!」    ドカッ  その憎悪のエネルギーの籠った拳は、天井を突き破って階下が覗かれた。 (いた、いたぞ! あのクソ野郎!)  階下で、コダマが何か料理を食べていた。だが、天井が破られたことに気が付き、こっちを見ている。焼いたはずの徳男が出てきたのに、驚きを隠せない様子だ。 「な、なぜ出てきた?」 「やかましいわ! 死んでたまるか!」   バキバキ  天井を破壊しつつ、徳男はコダマ目掛けて飛び蹴りを放った。 「これは、オレが『スト伝』で得意技だったケンジの応用技だ! 食らえ、暗黒烈風脚!」  徳男は全身を捻って、捩じりながら飛び蹴りを放った。 「ぬおっ! お前、生きてたのか!?」 「問答無用、死ね! 食人鬼!」  不意打ちは、極めてよく効く。  猛烈な勢いで全身を回転させながら、硬質化した足でドリルの様にコダマ目掛けてドロップキックを放った。    バキッ 「ぬおっ!」  その顔面に、徳男の蹴りが直撃した。  天井に開いたそのスキマから、明美が覗き込んでいた。 「やった! ロデムやるわね!」    ドサッ  コダマは倒れ込んだ。 「ロデムー、油断しちゃだめよ! そいつ、まだ死んでないから!」 「あ、ああ。分かってる」  徳男は、改めて両足を広げて、コダマの前でファイティングポーズを取った。それは、スト伝のケンジのファイティングポーズだった。 「お、お前……。生きていたのか。道理で、焼き上がりが遅いと思ったぜ……」 「ふ、ふざけるなよ。今度こそ、お前をぶち殺して、ライトマンに献上してやる!」  徳男の全身から、黒いオーラが湧き上がっていた。 「……フフ、ライトマンなぁ。あの裏切り者がなあ、あいつの手先になったってか? 哀れなヤツめ」  コダマは、意外なことを口走った。 「ライトマンが裏切者? どういうことだ? 裏切者はお前だろ!」  徳男がそう言い返すと、コダマはニヤリと笑った。 「あはは、あーっはっはぁ! 何を吹き込まれたか知らんが、良いように使われて、笑いものだぜ! ま、取りあえず、お前をぶち殺して、熱々ピザの具材にしてやる!」 「望むところだ! もうあの手は桑名の焼き蛤だぜ!」
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