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第17章 火は、木を燃やすチカラ
徳男は、だいぶ暗黒パワーを使いこなせて来ていた。
「行くぞ! 黒竜江砲!」
ドオン
徳男の右手から、真っ黒い衝撃波が放たれた。
「食らうか! 出でよ、ドリアード!」
地面から、無数の木の幹がまるでコダマの全身を覆うように伸びてきて、黒い衝撃波を受け止めた。
バキ、バキバキッ
木々は、衝撃波を受け止め切れずにことごとく跳ね返された。
「ハハハ、見たか。お前の攻撃などは、通用せん……?」
ところが、徳男の姿はそこにはなかった。
「むっ、どこだ? どこに行った!」
ところが、徳男の姿はどこにもない。それどころか、明美の姿すら小屋の中にはくなっていた。
「そうか、そういうことか。オレの強さに恐れをなして、逃げたか! あーっはっは。まあ、それが賢明な判断だな。まあ、この樹海から逃れられるとは思えん。オレが樹海に張り巡らせた『木の眼』で探せば、あっという間に虜にできるのだからな!」
ところが。
ドカッ
「うぐっ」
コダマは、背中に鈍い衝撃を受けた。
「むっ、後ろか?」
振り返ったが、そこに徳男の姿はなかった。
ドカーン
さらに、何かが爆発する音が小屋内に響いた。
コダマは、小屋の中をあちこち見回した。
「ど、どこだ? どこへ行った? 今の衝撃は、何だ?」
しかし、衝撃を放った軌跡も、爆発の原因も全くつかめない。
さらに、鈍い衝撃がコダマを再び襲った。
ドカッ
「んぐっ! くそっ、どこだ、姿を見せろ、卑怯者!」
―ははは、人を騙して食うヤツに、卑怯者だの言われる筋合いはないわ!
コダマは、あることに気付いた。
「そうか、外からか! 外から、衝撃波を放っているんだな!」
コダマは黒竜江砲が、物理的な弾丸ではなく、エネルギーの塊であることを見抜いていた。つまり、超音波の様に、壁や物体を破壊せずにその衝撃を伝える事ができるのだ。
外に出ようとした。
だが、小屋から出ようとして、ドアノブを握った時、別のある事に気付いた。
「熱っ!」
ドアノブが熱さの為に握れない。
しかも、既に小屋の中に、煙が充満していた。
「し、しまった……」
―ハハハハハ。オレ、ゲーマーなんだよね。木が火に弱いって、ゲーマーなら誰でも知ってんだよなぁ。出してみろよ、お前の得意な木の攻撃ってヤツ!
徳男は、コダマが自分の身を無数の木で守っている隙をついて、その跳躍力と暗黒破壊力を活かして明美を救い出し、小屋の外に逃げていた。
「しかもなぁ、オレは釜の中を細工して、空気が逃げないようにしていたんだよな」
煙突と、自分が這い出てきた穴を塞いだのだと徳男は言った。
火の勢いは強かった。しばらく雨が降っていなかったこともあって、瞬く間に小屋全体が紅蓮の炎に包まれていた。
「あ、明美さん。危ないから近寄らないで」
「あ、うん。あいつって、木のチカラを使うんでしょ? だから、火には弱いのよね。じゃあ、もう出てこれないんじゃ……」
「い、いや。まだ安心できないっす。あいつが、簡単に死ぬとは思えない……」
その悪い予想の通り。
バキっ、バキバキ
コダマは、鋭い斧で扉を破壊して出ようとしていた。
「ほら、ね。しかし、そうは問屋が卸さないよって」
徳男は、壊れつつある扉の前で、両掌を合わせて腰を落としていた。
ちょうど、かめはめ波を打つ体勢と同じだった。
「えーっと、これ、何ていう技にしよう?」
くだらないことを考えつつ、徳男は自分を食人鬼に食べさせようとしていた両親や、自分を連れてきた魔族に対する憎しみを増幅させていた。
バキバキ
扉の一部が崩壊し、中からアフロの頭が見えた。
「おのれっ、外道の手先が!」
コダマは完全に扉を破壊し、そして外に出ようとした。
「今だっ、食らえ! 暗黒獄殺掌!」
ズドーーーン
徳男の両掌から放たれた超濃度の暗黒エネルギーは、扉を破壊するのに一生懸命で隙だらけになったコダマの身体を見事に貫き、しかも、炎に包まれた小屋に押し戻した。
「うぎゃあああああー、助けろ、おい、助けてくれ! オレを殺しても、意味がないぞ! 知りたくないのか、光の一族の偽りの姿を!」
コダマは、謎の恨み節を交えた断末魔の叫びを炎の中に紛れ込ませながら叫び続けた。
「いや、何でオレがお前を助けなきゃいけないんだよ。てか、お前をデッドorアライブの状態で、ライトマンのところに連れて行かなきゃ、オレは元の姿に戻れないんだよ!」
―元の姿? お前は、そんなことを、信じて、いる……
コダマは、何かを言おうとして、その言葉は続くことがなかった。
「ね、ねえ。元の姿って、ロデムって仮の姿なの? 元々は何者? 宇宙人?」
一緒に燃え上がる小屋を見守っている明美が、そう尋ねた。
紅蓮の炎に照らされた明美の横顔を、徳男は初めて見た。
身長は160センチそこそこ。髪はライトブラウンに染めて、サラサラ。近づくと、良いニオイがしそうだ。
(ゲ、マジ可愛いじゃん。てか、オレの息子、反応しないのか??)
明美はパッチリとした二重で、鼻筋が通っていいた。まるで外人の様に鼻梁がすっきりとしていて、唇がブルプルとして色気があった。
それに、大事なことがあった。
スレンダーな体に、いわゆる「巨乳」というにふさわしい豊満なバストを持っていた。
(何でこんなカワイイ子が、樹海で自殺を?)
不思議でならなかったが、今はそれを聞くタイミングじゃないと思った。
「あ、オレ元々、サラリーマンだったんだけどさ、1か月ぐらいニートして、再就職の前に樹海探検してたら、なぜかこんな姿になっちゃって。だから、戻る方法を探してるんだ」
ウソじゃあない。ウソは言ってない。
徳男は、自分に言い聞かせた。
(ヒキニートで両親に捨てられた挙句、変な処刑器具にぶち込まれたとか、口が裂けても言えるかよ)
明美は、腕組みをして、「ふうん」と声にもならない音を発した。
「ま、良いわ。とにかく、助けてくれてありがとう!」
チュッ
なんと、明美は徳男の横顔に軽くキスをした。
「マ、マジで!!」
あり得ないことだった。
つい数日前まで、引き籠ってニートをしていた社会のお荷物、髪も薄くブヨブヨのブタ野郎が、こんな美女から感謝のキスをされるとは。
「ほ、惚れてまうやろーーーーーーー!」
小声で、徳男は呟いた。
「は? 何か言った? 勘違いしないでよ。私、海外で生まれて育ってるから。キスとか普通だから」
明美は、冷たく言い放った。
(くう、これがツンデレってヤツか? た、たまらん!)
徳男は、事実を捻じ曲げて良いように勝手に解釈した。
今、タイツマンとなった徳男に顔のパーツがあったなら。
間違いなく、よだれを垂らして、みっともない顔をしていただろう。
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