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第20章 初体験💛
―おっと、手が滑った。余計なことは詮索するな。
「手が滑ったじゃねーよ。オレ、昼間は弱いんだろ? 死ぬじゃねーか!!」
そんな疑問をよそに、ライトマンは続けた。
―はいはい、何度も同じことを言わせるな。死なない程度に痛めつけただけだ。さっさと次いこ。次は、火のターゲットだ。
「え、ああ、もう?」
―ああ。時間がないのでな。なるはやで。
このライトマンという実態の掴めない謎の存在。
次第に、発する言葉がタメ口化、もしくはネットスラング化してきている。
「おい、ライトマン。指令が適当になってる上に、ちょくちょくネットスラング挟んで絡んでくるけど、どういうスタンスなんだよ……」
はたから見ると、徳男が一人でぶつぶつと呟いているようにしか見えない。
明美も、例外ではない。
「ねえ、さっきから何ボソボソと独り言いってんの? やっぱりニートって、情緒不安定なの? それに、さっきの光、あれもあなたの仕業なの?」
不機嫌に顔を直視している。
「あ、いや。あれはオレの雇い主の仕業で。で、あいつと遠隔で対話しているというか、何と言うか」
「雇い主? どういうこと? この全身黒タイツ、何かの仕事なの?」
「ん、まあ、仕事というか、何と言うか」
この徳男の煮え切らない態度に、明美はイラついた。
「ちょっとロデム! てか、何なの? はっきりしてよ! あーイライラする!」
あからさまに不機嫌な態度だが、女と付き合ったことのない徳男は、こういう時、どういう顔をして、どういう対応をすれば良いのか、皆目見当も付かなかった。
「えーっと、つまり、すごいパワーをもらった代わりに、仕事しろって言われてる」
ニートはニートなりに、精いっぱい説明した。
「は? すごいパワー? 例えばどんな?」
明美は半信半疑、半笑いで徳男の顔を覗き込んだ。
「た、例えば、ジャンプしてこの樹海全体を見渡すとか、刃物で切られても何ともないとか、波動拳みたいなの出せるとか」
何も知らない明美が聞けば、それは全て空想か漫画の世界の話にしか聞こえないだろう。
「はぁ? あんたバカぁ? じゃあさ、何かやってみてよ」
バシッ
明美は、思い切り徳男の背中を叩いた。
「お、おう」
徳男は、思わずたたらを踏んだ。と同時に、ちょっと興奮した。
(お、オレ。今、女子に叩かれた? つまり、女子と接した?)
間接的でも、女子と肌を接したのだ。引き籠りニートの童貞・徳男にとっては、あり得ない体験だったのだ。
童貞ニートの、初体験なのだ。
「い、今はちょっと無理っぽい」
ちょっぴり興奮しているせいか、言葉を発するのも少しぎこちない。それに、昼間は、タイツマンのチカラはほとんど発揮できないのだ。
「は? だからどういう事って!」
「あの、オレ真っ黒だろ。だから、闇のパワーなんだよ。闇の人間は夜しかパワーだせないっぽいんだわ」
明美は、眉間に深い深い皺を寄せつつ、顎を突き出した。
「ふうん。じゃあ、夜になったらそのすごい力ってヤツ、見せてよ」
「あ、ああ。良いよ」
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