第23章 ころ、して

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第23章 ころ、して

「あ、はい。分かりました」  頭を下げ、もはや完全に従属関係となった徳男だった。  明美は、ニヤリと笑い、ふふん、と鼻を鳴らした。 「分かればよろしい。じゃあ、あなたに私からも仕事をあげるわ」 「仕事? なに?」 「あんたに頼みたいことがあるの」 「頼みたいこと? 何でしょう」 「あんた、パワーあるって言ったじゃん。それ確認してからにするけどさ」  明美は、少しもったいぶっている。  何か、取り引きか駆け引きをしたがっているように、徳男には感じられた。 「は、はい。オレにもまだ、どれだけのことができるか分からないですが」 「ころ、して」 「えー、ころす? は、はああああああ?」  徳男の耳には、明らかに「殺して」と聞こえた。 「そうよ、殺して」 「い、イヤです。オレ……いや僕は、明美さんを殺すとか、絶対できないです! 無理無理無理、無駄無駄無駄無駄ァ!」  黒タイツの顔が、右に左に激しく揺れた。  明美は、両手を腰にして、眉を大きくひそめた。 「はぁ? 私を殺せなんていう訳ないじゃん。殺してほしい相手がいるのよ」  不意に、そんな物騒なことを明美は言い出した。  突然の殺害依頼に、さすがの徳男もしり込みした。 「殺してほしい相手? いや、オレの使命は、なんか反逆者だか何だかを探すことなんで。人を殺す能力とかないと思うし……」  ちょっぴり及び腰になった徳男を見て、明美は譲歩してきた。 「ん-、まあ殺さなくてもいいんだけどさ。とにかく、酷い目に遭わせたいヤツがいるのよ。あんた真っ黒だからさ、闇討ちとか得意そうじゃん。だから、そいつボコボコにしてよ」    真っ黒な存在=闇討ち得意    いつからそんな方程式が存在しているのだろうか、という疑問を徳男は持った。だが、明美にそんなことを言っても仕方がないだろう。 「わ、分かった。じゃあさ、その約束果たしたら、オレにもご褒美ちょうだよ」  精いっぱいの自己主張を、この全身黒タイツの元引き籠りニートはやってみた。家族以外に、自己主張を展開するのは、これが初めてかもしれない。
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