第26章 あんたは、ムシ!

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第26章 あんたは、ムシ!

 結局、徳男は手を繋げなかった。  ただ、樹海を散策して、脱出することには同意した。 「えーっと、私のスマホもあの小屋と一緒に燃えたからさ……。位置分かんないけど、取りあえず、東に行って富士吉田に出るしかないわね」  幸い、太陽が頭上に出てきた。  東を目指せば、いずれは樹海を抜けられるだろうと考えたのだ。 「えー、それって適当ってヤツじゃない?」  生まれついての面倒くさがり屋の徳男は、明美にぼやいた。  短気な明美は、これにカチンときた。 「あ? んじゃ、あんたちゃんと帰り道、見つけてきてよ。文句言うならさ」  明美に凄まれると、徳男は何も言えない。 「うぐ……」  と、その時。 ―おい、下僕。何をしている。さっさと2人目を探しに行かんか。  ライトマンの声が、脳裏に響いた。 「いや、行けと言われても」  明美が横目で、ジーッと睨んできた。 「まぁた独り言が始まったわ……」 ―お前は、あの能力を忘れたか。 「あ、あの能力って? ああ、あれか」  徳男は、明美とのやり取りのストレスで、大切なことを忘れていた。 「悪者が、光を放ってるってヤツ」  光る先を追って行けば、ターゲットを見付ける事ができるのだ。 ―その様な大切なことを忘れるとは。やっぱり社会経験がないニートは、ポンコツだな。 「るせー! しかし、さっきまで1つしか光が見えなかったぞ!」 ―ああ、言い忘れてたけど、対象となるターゲットの光は、一つずつしか見えない。 「そういう大事なことは、早く言えよ!」 ―余に口答えするな!  どおおおおおおおおおおおおおおん 「ぐぎゃああ!」  徳男の頭上に、激しい雷が落ち、全身に電撃が走った。 「きゃあっ!」  隣にいた明美は、眼の前に雷が落ちたことに悲鳴を上げた。 「くうう、毎回毎回……。ふざけんなよなあ」 「ちょっと、何なの? 急に雷落ちて来て、恐いんだけど」 「う、うう。それは、その、お仕置きというか、何と言うか」  胸を押さえて苦しむ徳男。  怪訝な顔をして首をかしげる明美。 「ふうん、ま、いいわ。で、どうすんの? さっき、一人でぶつぶつ言ってたけど」 「あ、ああ。オレ、光ってる方に歩いていけば、目標にたどり着けるっていう特殊能力があるんだ……」  2人は、あてもなく歩き始めた。 「それって、光ってるモノに吸い寄せられるってこと?」 「んー、まあそう言う事になるのかなぁ」  徳男が力なく返事をすると、明美はプッと笑い出した。 「あははは、あんたムシみたいね。ニートじゃなくて、ムシ、みたいな。あははは。無視されてたのに、今は虫って。超ウケルんですけど!」  明美が横で、ケラケラと笑う。  樹海の木々のスキマから、あたたかな日光が二人を包んでいる。  バカにされているんだろうけれど、それが徳男にとっては新鮮だった。  ドキドキ、ドキドキ (んー。虫じゃないけど。まあ、無視され続けた10年だったのはじじつだな。だけど、何だろう。明美ちゃんと一緒にいて、こうやってバカにされても、悪い気がしないのはなぜだろう)
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