第27章 木登りニート

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第27章 木登りニート

 徳男は、立ち止まって周囲を見回した。  夜と違って昼間だから、次のターゲットが発する光を見付けるのが難しい。 「ゴメン、ちょっと待って。次のターゲット見付けるから」  明美は、腕組みをして徳男がキョロキョロするのをジッと見詰めていた。 「えーっと。やっぱり昼間だから見づらいなぁ」  昼間は、夜間の様なチカラは出せないが、木に登る位はできるのではないかと、徳男は思った。 「ちょっと、早くしてよ。何ぼさーっとしてんのよ」  短気な明美がせっついてきた。 「ちょ、待ってよ。木に登ってみるから」  ニート時代には考えられないことだった。 「え? あんた木に登れんの? そう言えば、あんた意外に凄かったわね。でも、昼間はダメなんでしょ」 「ま、そうだけどさ。全然ダメって訳じゃないから」  徳男は、適当な木を見付けて登ってみることにした。 (あれ? 意外に行けるぞ?)  身体が軽かった。もはやピザデブと化していたブヨブヨの脂肪の塊が、今や筋肉の塊になっている。 「ちょっと、ロデム! あんたどこまで登るのよ!」  気が付けば、木のてっぺんまで登っていた。  かなり、この真っ黒なタイツの能力を使いこなせているという感じだ。 「やった! オレ、やればできるじゃんか」  真っ黒な塊が、木のてっぺんに居座っている姿は、どう見ても悪魔の化身だ。  目の前に、巨大な富士山がそびえ立っている。  見上げると、太陽の光が黒いタイツを焼き焦がすかの如く照り付けている。 「あー、もう昼か。つーか、富士山が邪魔で光がどこにあるのか分からんなあ」   ―おい、早くしろ。東の方を見ろ、東だ!  なぜか、ライトマンは急かしてくる。 「んだよ、分かってんのなら教えてくれりゃいいじゃん」 ―あ? 甘やかしたら、お前の様なポンコツは成長せんからな。 「……まあ、それ言われると言い返せないんだけど」  徳男は、東の山梨・富士吉田市の方を見た。 「あ、あれかぁ。光の筋が一本、立ってるわ。そういや、ターゲットによって光の見え方が違うって言ってたっけ。まあ、いいや。目指す方向分かったし。とりあえず、明美ちゃんと東へ行けばいいんだ。あの場所、覚えとこっと」  徳男は、降りようと思ったが、下を見てビビった。 「こ、こわ……」  どうやって自分が登ったのか忘れてしまった。 ―ちょっとー! あんた何やってんのよー!  下から明美の怒鳴り声が聞こえてきた。 「え、えっと、その。降りれなくなった……」 ―はぁ? あんた、バカなの!! さっさと降りてきなさいよ!  徳男は、せっつかれてもあまりの高さにビビッて、返事さえも出来なくなって、木のてっぺんで固まっていた。 ―ちょっとー! あんた何やってんのよー!  下から明美の怒鳴り声が聞こえてきた。 「え、えっと、その。降りれなくなった……」 ―はぁ? あんた、バカなの!! さっさと降りてきなさいよ!  徳男は、せっつかれてもあまりの高さにビビッて、返事さえも出来なくなって、木のてっぺんで固まっていた。   「ご、ごめん。マジで降りれない……」 ―はぁ、あんた、何か能力身に着けた割には、中身は変わってないのね。分かったわ、夜になるまで待つわ。夜になったら、何かチカラ出てきて降りれるんでしょ? 昨日みたいに。  明美にそう言われて、徳男は思い出した。  初めてこのチカラを試した時。  ジャンプしただけで、この木の高さを超え、無事着地したことを。 「そ、そうだね……。あと、5時間ぐらいかな、ホント、ゴメン」  そう返事したが、明美からの返事はなかった。
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