第29章 お、おんぶ???

1/1
前へ
/38ページ
次へ

第29章 お、おんぶ???

 明美のその一言に、徳男は衝撃を受けた。 「お、おんぶ! 女子を、おんぶ! オオオ、オレが!?」  明美にとっては、どうってことのない言葉なのだろう。  それまで、何人もの男の背中に揺られてきたのかもしれないのだ。 「え? それがどうかしたの? あ、分かった! 童貞のニートが、若い女子をおんぶするからって、興奮してるんでしょ」  それ以外に、何があるんだろうか。 「い、いや、そ、そんな、ち、違うし」  おろおろする、というのはこの時の徳男の様子を言うのだろう。  いつの間にやら、徳男は立ち上がって明美の前で中腰になってキョロキョロとしていた。 「童貞の考える事なんて、単純だから分かるわ。ねえ、お腹も空いたし、早くしてよ! あんた、夜になったら凄いパワー出るんでしょ」  全てを見透かされている気がして、恥ずかしくなった。 「わ、分かったよ。じゃあ、乗って」  徳男は明美に背中を向けて、おんぶの姿勢を取った。 「そう、早くすれば良いのよ。でもさ、スケベな気持ち起こしたら、後ろから首絞めるからね」  首を絞めるー。  徳男は、複雑な気がした。  おんぶしてやるのに、褒美はなく、下心を起こしたら首を絞められるという半殺しのような罰が与えられるのだ。 「は、はあ。分かったよ。言い忘れたけど、オレはアソコがどうやらなくなってるんだ」 「え? どういうこと? あんた女なの?」  全身黒タイツであるため、外見も男女の区別がない。 「い、いや。人間だった時は、男だけど。今は、男か女かも分からないし、どうやら、食べ物も食べなくていいし、それこそ、排泄したりする必要もないっぽい」  明美は「ふうん」とだけ呟いた。目の前にいる存在は、何やら理解不能な存在だが、自分に対する敵意はないし、割と従順だから、まあいいかという感じなのだろう。 「じゃ、行くわよ」  どさっと、明美は徳男の背中に乗った。  明美は徳男の胴に手を回した。  その豊満なバストが、容赦なく徳男の背中にむにゅむにゅと押し付けられた。 (お、おおう。やべー、背中の感触、マジでヤベー)  もし自分に息子があったなら。  過剰な反応をして、とても立っていられなかっただろう。  徳男は、明美の足を抱えて安定させた。 「ちょっと。足触るのはまあ、最大限許してあげるけど、さわさわしたら首絞めるからね!」 「……はい」  何だろう、この仕打ちはと、思わないでもない。  ただ、別に悪い気がしないのは、不思議なことだと徳男は思った。 「じゃあ、行くよ!」  夜になって、光の筋が天空に伸びていることがはっきりと見えた。  そして徳男は、その光る筋を目掛けて、走り始めた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加