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第34章 自分で行ってきて!
3人は、燃え盛る炎の海へと足を運んでいった。
「うわ……。だんだん熱くなってきたわ。何、まるで戦争だわ。無理、私無理だから。ロデム、あんた行ってきて」
明美が、唇を尖らせながら眉をひそめた。
「え? オレだけで?」
徳男は立ち止まって、目を丸くした。と言っても、顔がないから、明美には見えない。
「そうよ。私みたいにか弱い女性を、あんな修羅場に行かせるつもり? あんたそれでも男なの?」
男なのと言われても、今の徳男に男の大事なモノは失われている。
ただのタイツ男なのだ。
「いや、まあ、そうだけどさ……。分かったよ」
だいぶ、明美の性格と行動パターンが読めてきた。ここで抗弁しても、無駄だと言う事が徳男には分かり始めていた。
「あ、ロデムさん。私が案内しますよ。一緒に行きましょう。早くしないと、子どもの命が」
二人の痴話喧嘩に業を煮やしたのか、ムラが割って入って促した。
正直、他人の子供の命なんてどうでも良いと、徳男は思っている。ただ、明美の言う事にはなんとなく従わなければならないという根拠のない使命感だけが、その行動を支配している。
「はいはい、分かりました。行きゃ良いんでしょ。てか、どこが燃えてるんですか?」
「多分、富士山駅の近くだと思います。私は、そこの消防署から来たんです」
人生経験の少ない徳男でも、「おや」と思った。
(消防から来たって、消防士なんだろ? こいつ、何で火消しやらないんだ?)
「あ、消防署から来たのに、何で消火活動に参加しないのかって思いましたよね?」
ムラは、なぜか徳男の疑問を見透かすかのような発言をした。
徳男は苦笑して、チャンスと思った。
「あ、ばれました? だって、オレなんて無関係の人間が人助けして、あんたみたいなガチの本職が逃げてきてるとか、おかしくないですか?」
ムラは、ふう、と溜息を付いて徳男に微笑みかけた。
「ええ、もちろんです。ですが、今日は非番で、たまたまショッピングセンターにいたところで、消防本部あたりで火事が発生したと聞いて、ここにいた人たちや、逃げてきた人を先導してきたんですよ」
「そ、そうなんだ、へえ。で、そのコスモスとかいう塾はどこですか?」
妙な違和感を抱きながら、二人は「綾菜ちゃん」が通っていたという塾へと向かうことにした。
富士吉田市内は、まさに地獄絵図の様だった。
あちこちで家屋が炎上し、二人の行く手を阻んだ。
だが、不思議なことに、ムラは熱さを感じていないのか、涼しい顔をしている。
(そういや、オレもこの黒タイツのお陰か、熱さを感じないが……。コイツは、生身の人間じゃないのか?)
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