第3章 ソースカツには白い粉?

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第3章 ソースカツには白い粉?

 高速道路に乗ると、澄子は徳男に水筒を差し出した。 「徳ちゃん、これ。徳ちゃん大好きなコーラとドクターペッパーのカクテル」 「おっほー、ババア、気が利くじゃねえか」  徳男は、巨体を揺らしつつ、間髪入れずに水筒に口を付けた。  その光景をバックミラー越しに見た博司は、クククと含み笑いをした。 (愚か者め……。その醜い肉体を作り上げたそのドリンクで、お前は地獄への片道切符を手に入れるのだ) 「ぷはーっ、うめーわ。やっぱ、糖質最高っ!」 「徳ちゃん、あんまり飲みすぎないでね」  母澄子だけが、この肉の塊の様な男を優しい眼で見続けていた。  腹を痛めた母親というのは、どうも甘さが抜けないなと、博司は横目でチラ見しながら嘆息した。  ほどなく、山梨県に差し掛かったころ。 「ああー、何だか気持ちが落ち着くなあ。何だろう、こんな気持ち、初めてだあ」  出発してしばらく、謎のアニソンを大声で口ずさんでいた徳男は、急に大人しくなった。   その声を聴いた博司の口元が、わずかに上がった。 (母さん。聞いてきたようだな。強力な精神安定剤が) (え、ええ。でも、本当に良かったんでしょうか) (今さら何を言う。別に犯罪をやる訳じゃない。コイツは未成年じゃない。我々に扶養義務はないにもかかわらず、死ぬまで寄生し続けるつもりの寄生虫だ!)  寄生虫、という父が発した新しいワードに、母は少し動揺した。 (お父さん、それはちょっと言い過ぎでは) (何を言うか。35歳にならんとする男が、いつまでも両親に養ってもらう状況。それだけでも罪深いというのに)  母は、言い返す言葉もなかった。確かに、本当なら孫の顔も見せ、父親に退職のお祝いでもすべき年齢であるのに、言う事と言えばワガママばかりの我が子。 (そう、ですね。勤勉で実直な東北人の私たちから、何であんな怠惰な子が育ったのか……)  澄子は、母という立場からあくまで、自分に非があると感じている。 (母さん、自分をあまり責めるな。わしだって、責任は感じている。だから、唯一の更生のチャンスに賭けるんじゃないか。それが、わしらが出した結論だっただろう)  澄子は、下唇を噛み締めて、目を伏せがちにしていた。  ほどなく。  談合坂サービスエリアに着いた。  平日だというのに、多くの人でにぎわっている。
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