壱 弱者の挑戦

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 サラ…と、まだ濡れているフィオナの髪を手に取り自身の口元へ寄せるとそこへキスをしたエドモンド。 (き、気持ち悪いっ…!)  フィオナの中でエドモンドに対しての不快感が最高潮に高まっていく中、彼は満足そうな表情でフィオナを見下ろしていた。 「前に遠くから見た時も似ているとは思ったけれど…」  エドモンドはそう言いながらフィオナの髪から手を離して彼女の上体を起こさせる。 「こうして間近で見ると、そっくりだ」 「な、なんの事ですか…?」  怯えた様子でフィオナが尋ねると、エドモンドは「前アンダーソン男爵夫人だよ」と穏やかな口調で答えた。  確かに自分は母に似ていると言われているけれど…と、フィオナの中で何も解決していない答えに何と返せばよいのか分からず言葉に詰まった。  そんな中、エドモンドはフィオナの下着姿を堪能するように眺めて、そして気が済んだのか立ち上がる。 「フィオナ嬢、また後で」 「え…?」  エドモンドはフィオナの疑問に答えることなくそのまま部屋から立ち去って行った。  あの不快な視線にこれ以上晒されずに済むと安堵する一方、フィオナは何とも言えない不安に駆られるのだった。  いつもの質素な装いに着替え、エドモンドのことが原因で意気消沈しながらキッチンへ向かっていると途中でカサンドラと出会した。 「やっと見つけたわ」  どうやらカサンドラはフィオナを探してキッチンまで向かっていたらしく、その戻る途中にお目当ての人物を見つけたらしかった。 「お母様…?」 「今日の夕食の準備は結構よ。ローリー伯爵令息が馳走を振る舞ってくれるらしいから」  はぁ…と空返事するフィオナを眉を顰めて見つめるカサンドラ。 「お前も早く食堂に……って、もう少しマシな服はないの?」 「あ、ありません…」  そう責めるように言うが、それなら自分にも予算を与えてくれとフィオナは思ったが余計なことは言わずに下を向いた。 「はぁ…まったく。ジュリアンナの服を借りてきなさい。サイズはそこまで違わないでしょう?」  発育の良いジュリアンナは確かにフィオナとそう変わらない背丈だ。フィオナは頷いてからカサンドラに会釈すると、そのままジュリアンナの部屋へと向かった。  ジュリアンナの部屋に着いて事情を話すと、少し嫌がる様子を見せる彼女だったが、先ほどリオンと自分を二人きりにしてくれたフィオナの行いを思い出し服を貸し出すことを了承してくれた。  ジュリアンナの持つ服の中でも一番地味な、けれどもフィオナの服よりかは遥かにいいデザインのワンピースドレスを借りた。  着慣れない綺麗な服に袖を通して、こんな訳のわからない現状であってもこの時ばかりはフィオナも楽しさを感じた。着飾る楽しさを知らない彼女にとって、ジュリアンナに借りた服は大きな刺激だったのだ。
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