壱 弱者の挑戦

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 ジュリアンナと共に食堂に着くと、中にはカサンドラとエドモンドの姿があった。  いつもカサンドラが座っていた当主席にエドモンドが、そしてカサンドラはその右列に着席している。 「ジュリアンナ、こちらへいらっしゃい。フィオナは向かいの席へ」  カサンドラに指示された席に着席すると、まずフィオナの目に飛び込んできたのは普段なら滅多にお目にかかれない高級食材をふんだんに使ったご馳走の数々だ。  ジュリアンナも食台に並ぶ料理たちに目が釘付けとなり、ゴクリと喉を鳴らしている。 「さぁ、皆揃ったことだし頂きましょうか」  エドモンドがまるで家主のような振る舞いで夕食開始の合図を出した。すると、どこに隠れていたのか数人の侍従やメイド達が食堂に入ってきて四人のワイングラスに飲み物を注いでいく。 「乾杯」 「…乾杯」  エドモンドの動きに合わせて、アンダーソン男爵家の人間も注がれたワイングラスを掲げた。  どうやらこの豪華な食事達はエドモンドが持参してきたものらしく、それをローリー伯爵家の使用人達がアンダーソン家で盛り付けをして配膳してくれたみたいだ。  フィオナは使い慣れない銀食器を片手に恐るおそる料理を口に運ぶ。恐ろしいほどに美味な料理でこれが貴族の食事なのだと理解した。どうやらジュリアンナもフィオナと全く同じ事を考えている様子だ。  食事も終盤に差し掛かり、今までエドモンドと談笑していたカサンドラが突然フィオナに声を掛けた。 「…こうして見ると、貴方たちとてもお似合いね」 (……え!?)  フィオナは料理から顔を上げて、信じられない目で目の前のカサンドラを見る。母は綺麗な笑みを浮かべているが、その目は一切笑っていない。  「それは嬉しいですね」と、隣で楽しそうに笑うエドモンドの声にフィオナは冷や汗が出た。 「え…それってつまり…」  フィオナ同様に驚いた様子のジュリアンナ。カサンドラは優しく微笑み頷いてから「まさか我が家にローリー伯爵家との縁が出来るなんて思いもよらなかったわ」と言った。  ジュリアンナはぎこちない笑顔…もはや苦笑に近い笑みを浮かべてフィオナを見た。 「へ、へぇ…お姉様、おめでとう…」  妹のその目には哀れみが。いくら大金持ちのローリー伯爵家の息子だとしても、相手はエドモンド・ローリー。ジュリアンナはフィオナの事を初めて心の底から哀れだと思った。  フィオナはジュリアンナの祝辞に応えることなど出来ず、真っ白な頭で固まっていた。  先ほどまであんなに美味だと感動していた料理のはずなのに、何故か今は何の味もしなかった。
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