壱 弱者の挑戦

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 *  食事を終えて、一人先に自室に戻ってきたフィオナは青褪めながらベッドに腰を下ろした。 (どういうこと…お母様は…本当に私を、エドモンド・ローリーと結婚させようと…?)  まだ信じられない。フィオナは震える手で頭を抱えて小さな唸り声をあげる。 (なぜ、なぜなの…? あと二ヶ月もすれば私は男爵位を…)  そこでフィオナはやっとカサンドラの本心に思い当たった。カサンドラはそもそも、フィオナにアンダーソン男爵位を継がせる気が無いのだ。  これまで自分の婚約者を探す素振りも見せなかったカサンドラに、フィオナは自分が男爵位を継ぐことを母も認めているからだと思っていた。…思い込んでいたのだ。  しかし現実はそうではなく、カサンドラはただ虎視眈々と婚姻が認められる成人年齢の16歳にフィオナがなるまで指折り数えて心待ちにしていただけだった。  ローリー伯爵家とアンダーソン男爵家、この二つの家門には大きな家格の差があり、男爵家が得をすることはあっても伯爵家にはない。  家門の格差が大きくある場合の婚姻は、純粋な恋愛結婚か娘の売買結婚…。 (…私、ローリー伯爵家に売られたんだ…)  その瞬間、フィオナの胸にズンと重くのしかかるものがあり耐えられずに涙が出てきた。  フィオナは自分がどんなに使用人として扱われようと、ジュリアンナと扱いの差があろうと、自分たちは一度でも家族になったのだからいつか必ず分かり合える日が来ると信じていた。  自分が勝手にそう思い込んでいただけ。勝手にカサンドラを信じていただけ。だけど…。 (……裏切られた…)  どうしてもそう感じて、フィオナは声を押し殺して泣いた。  その時、部屋の扉が開いたのでフィオナが慌てて顔を上げるとまたもやエドモンドがフィオナの許可も得ずに部屋に入ってきたのだ。 「なっ、エドモンド伯爵令息様! 勝手に入ってこないでください!」  フィオナの中は今たくさんの感情がぐちゃぐちゃで、伯爵令息に気を使える余裕なんて無かった。  思った感情のまま怒りを露わにして言うと、エドモンドはヘラヘラと笑いながらフィオナの言葉を無視してあろうことか隣に腰を下ろしてくる。 「で、出て行ってくださいっ…!」  フィオナはカッとなって更に言い募ろうとした時、エドモンドが強い力で両腕を掴んできた。  そして、急に顔を近付けてきたのでフィオナは反射的に顔を背けて腕を振り解こうと力一杯にもがいた。 「おい…」  フィオナの抵抗に気を悪くした様子のエドモンド。 「俺たちはもう婚約した仲なんだ。キスくらい別にいいだろ」
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