壱 弱者の挑戦

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「…フィオナ。お前、もしかしてその模擬剣で向かうのか?」  決意を固めるフィオナの様子を見つめていたトニーは、ふと気付いたことを尋ねる。 「う、うん…これしか持ってないから。でも私、ある程度なら魔法も使えるし、この剣でも斬ることは出来るよ!」  不安そうな表情から始まったが、最後の方でフィオナは自信のある表情で言った。 「この馬鹿娘が」  トニーが呆れて言うと、「俺もさすがに模擬剣はないなと思うよ」とリオンも同調した。 「だ、だって…」  しょんぼりと肩を落として落ち込むフィオナに、トニーは「少し待ってろ」と声を掛けて席を外す。  暫くもしないうちに、トニーが剣を片手に戻ってきた。 「少し早いが、成人祝いだ」  そしてその剣をフィオナに渡す。もうすぐ迎えるフィオナの誕生日に合わせて、トニーが少し前から用意していたプレゼントだった。 「わぁ…!」  フィオナはリオンに促されて鞘から剣身を抜き、その細くて白く繊細な美しい刃に感嘆の声をもらす。 「フィオナの背丈と体重に合わせて作った特注品だ。お前がこれから30センチ以上も背が伸びなければ間違いなくずっと使える代物だぞ」  もうすぐ16歳になるフィオナの成長はそろそろ止まってきている。今後伸びても10センチほどのものだろう。 「トニーさん! ありがとう!」  剣を鞘に仕舞ってからフィオナはトニーに抱き付いて喜びと感謝を表した。そんな彼女をトニーは本当の娘を案じる気持ちで優しく抱き締め返す。 「フィオナ、俺からはこれ」  次にリオンから渡されたものは短剣だった。 「剣を贈るとか親父と被ってて二番煎じ感は否めないけど…それでもひとつ持っていれば役立つと思う」  フィオナよりひとつ年上のリオンは既に成人しており、傭兵として稼ぎに出ている。まだそこまで稼ぎも多くないだろうに…フィオナは受け取った短剣を見て、これが一級品のものであることがすぐに分かった。 「リオン、ありがとう!」  フィオナは短剣を胸に抱き締めて、心の底から笑顔を浮かべてお礼を言ったのだった。  そして短剣の柄を持ち直すと、自分の長かったストロベリーブロンドを一掴みに持ち上げて首元から一気に切り裂いた。 「!!」  トニーとリオンが驚く中、平民の少女でもしないようなショートヘアとなったフィオナは自分が切り落とした髪を握り締めて今一度、決意を固めたのだった。 「見てて、絶対に男爵となって戻ってくるからね!」  —壱 弱者の挑戦・終—
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