弍 帝都入場

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弍 帝都入場

 僅かなお金と荷物、そして新品な二本の剣を持ってフィオナは領民達が起き出すよりも早い早朝にアンダーソン男爵領から旅立った。  荷車を乗り継ぎながらの移動で困難していたが、途中で親切な旅楽団の一行と出会い帝都の隣町まで一緒に連れて行って貰えることになった。  少女なのに男のような格好をして、乱雑にぶつ切りにされた髪型のフィオナに訳ありだと察し同情していたのか、楽団員たちはとても親切に扱ってくれた。  踊り子達がせめて髪型を整えようと言ってくれたので、フィオナも見苦しい髪型を気にしていたこともありお言葉に甘えた。その代わり、楽団員達の洗濯や食事の用意など、出来ることは何でもやった。  半月ほどかけて帝都の隣町に到着した。フィオナが楽団員達に礼を言い別れを告げると楽長がフィオナの小さな手に何かを握らせた。  それはお金で、驚くフィオナに楽長は「道中に君が働いた分の賃金だ」と笑って言った。  フィオナは彼らの温かさに思わず泣きそうになるが、耐えて、泣く代わりに笑顔を浮かべて感謝する。  別れを惜しみながらもすぐに帝都へ向かったフィオナは、翌日の朝には目的地の帝都へ到着したのだった。  初めての帝都にフィオナは驚きの連続だった。  まず、人口量。アンダーソン男爵領にいる領地民の数を遥かに超えた人々が行き通っている。  市場らしいところでは、所々から客引きの声が上がる。とても活気のある雰囲気で逞しいエネルギーにそれだけでフィオナは圧倒されそうだ。 「そこの少年!」  市場の道を抜けていると、店の前に立ち客引きをしていた男から声を掛けられたのでフィオナはそちらへ振り返った。 「ん!? 嬢ちゃん、か…!?」  フィオナの顔を見て男は訝しみながら小首を傾げる。 「あの…何の御用ですか?」  見知らぬ男に声を掛けられ驚きで思わず立ち止まってしまった手前、フィオナはドキドキと緊張しながら男に尋ねた。 「やっぱり嬢ちゃんかい…まぁ、構わねぇ! その格好を見るに、お前さんは今からあの選抜試験に向かうんだろう?」  男の口からフィオナの目的である選抜試験の言葉が出たので、フィオナは少し目を開き先ほどよりも彼の言葉を聞く体勢に入った。 「この店では魔道具を売ってんだよ。どうだい? 試験前に見ていかないか!?」  魔道具は気になるところだが、フィオナは先を急がないといけないと思い遠慮することにした。 「そこまでの持ち合わせもないですし…遠慮しま…」 「まぁ、そんな事は店の中に入って考えよう! さぁさぁ、入って!」  しかし、男の勢いに負けてしまいフィオナは流されるままに店の中へ入ってしまったのだった。
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