弍 帝都入場

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 通常、魔術を発動させる時、自身から魔力を発して発動させるが、彫師の魔術は対象物に刻みつける。かなりの才能とセンスを求められる、誰もが気軽に出来る職業ではない。  初めてお目にかかる数少ない彫師にフィオナはまじまじとレイを見つめた。  レイが彫師だということは信じるが…しかし、無機質物にではなく人体に刻印する彫師なんて聞いた事がない。 「…この刺青はな、俺の研究なんだ」 「えっ…研究…?」  どうもまだ自分を疑っている様子のフィオナに、レイは自信ありげの表情で簡単に説明した。 「俺の研究は、物ではなく生物に刻印できるのか。…まぁ、しかし、元々魔力を有する生物に刻印することは神の御技に等しく、困難を極めていてな…」  と、レイは少し落ち込む様子を見せるがすぐに顔をあげてひとつフィオナに提案した。 「これも何かの縁だ。記念にお前さんの物になにか一つ刻印してやるよ」  フィオナは驚いて目を丸くする。 「ど、どうして…」  そして気になることを尋ねた。 「会って間もない私に、親切にしてくれるんですか…?」  するとレイは「うぅん…」と短く唸って頭を掻くと、懐かしむような目でフィオナを見た。 「実はお前が…俺の昔馴染みに似ていてな。そいつはもうこの世にいないが…ただ、久しくあいつに会えた気分になったんだ。だから、その礼だ」  他人の空似だろうけど、とレイはそこで言葉を切ってから手を差し出してくる。その手は『早くよこせ』と言っていた。  フィオナは慌てて刻印してもらいたい物を取り出す。トニーとリオンに貰った二つの剣。二つともフィオナの大切な物で、どちらに刻印して貰おうと悩んでいたら…。 「なに、二つあんのか? 大人しそうな顔して欲張りだなぁ」  と、レイが奪うようにフィオナの手から二本の剣を掴んだ。 「あ、ちょっと…!」  突然、大切な物を取り上げられて戸惑うフィオナを他所に、レイは店内の奥にあるカウンターにまで向かった。  フィオナもレイの後を追いかける。  レイは椅子に腰を下ろすと咥えていた煙草を思いっ切り吸い込み煙を吐いた。そして短くなった煙草を近くにあった灰皿に押し付けて火を消した。 「よし、やるか」  レイが何やら唱え出し、フィオナの二本の剣にレイの魔力が纏わり付く。フィオナは初めて目の当たりにする彫師の仕事を興味深そうに見守っていた。  暫く見つめていると、刻印が終わったのかレイがフィオナに剣を返してきた。 「? あの、もう一本は…?」  渡したのは二本。フィオナの手にはトニーから貰った剣しかない。リオンから貰った短剣は?  不安そうな顔で自分を見つめてくるフィオナに、レイは笑ってトニーの剣を人差し指でトントン、と軽く突いた。 「この中だ」
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