弍 帝都入場

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 えっ、と思わず声をあげるフィオナにレイは説明する。 「初めは属性を付けてやるか、耐久性をあげてやるかと考えたが、女の子の身でそんな格好をしているお前にはそんなものより『臨機応変』さが必要だと思ったんだ」  フィオナは今ひとつ理解出来ていないようで、難しい顔をしながらレイの言葉を黙って聞いていた。 「彫師の仕事は強力なものじゃない。刻印したところで劇的な変化はないし、しかしやった分の加護はある。それが通常の彫師の仕事だ」  レイはニヤリと笑い続ける。 「だが、俺はレイ・ゼウン。彫師だ!」  レイは尊大な態度で笑ってみせると、フィオナに自分が今刻印した力を教えてやった。 「収納魔法の刻印をした。あの短剣限定だが…収納魔法で物の出し入れする時と同じ要領で剣から短剣を取り出せる」  フィオナは信じられない気持ちで、だがワクワクした気持ちでトニーの剣に触れると…。 「ほ、本当だ!」  フィオナの手には、リオンの短剣が掴まれていた。  彫師の刻印で収納魔法を刻むなんて聞いた事もない。そのような芸当が出来る者は、間違いなく『天才』だ。フィオナは目の前のレイを改めて見た。 「危機に陥った時ほど、生き延びるために求められるのは『機転』だと俺は思う。二本になる剣なんて…たまらなく機転が利くだろ!?」  レイがそう言うと、フィオナは感謝を示すため勢いよく頭を下げた。 「ありがとうございます!」  ただ力を刻印するのではなく、自分のことを思い考えて刻印してくれたことが…フィオナはとても嬉しかった。 「…礼なんて要らないから、金が貯まったら魔道具を買いに来いよ」 「はい!」  レイは最後にフィオナの小さな頭に手を乗せて、少し雑だが優しい手付きで撫でてきた。 「試験、頑張ってこい」  フィオナはレイにもう一度感謝の言葉を伝えてから「合格してみせます!」と言葉を残してレイの店を後にしたのだった。  フィオナが気を取り直して試験会場へ向かっていると、軽装ではあるが武装した数人の男たちに絡まれた。ゴロツキというやつだ。  帝都は治安が悪い場所があるから気を付けろと先ほどレイから助言を受けていたが…なるほど、本当にその通りだった。 「嬢ちゃん、まさかと思うけどその格好…選抜試験を受けるのか?」 「…そうですけど…」  警戒したフィオナが剣の柄に手を掛けながら答えると、男たちは馬鹿にしたように大声で笑い出した。 「やめとけ、やめとけ! 国中から自信のある男たちが集まってきているのに、あの試験で嬢ちゃんに出来ることなんて何ひとつないよ!」  側から見れば全くもってその通りなのだが、しかしフィオナは悔しさから奥歯を噛み締めると、自分を馬鹿にして笑う男たちをキッと睨み付けた。 「…なんだよ、その目。俺たちは嬢ちゃんのためを思って助言してやってるんだぜ…?」 「け、結構です! 先を急ぐので道をあけてください!」  フィオナの態度に不快感を露わにした男たちがジリジリとにじり寄ってくる。 「少し痛い目見れば、自分の立場が分かるのか?」  男たちはついに腰にぶら下げていた粗悪品のような剣を抜いて、フィオナに刃を突き付けたのだ。  フィオナは初めての対人との対戦に緊張でゴクリと唾を飲み込んだ。
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