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参 専属騎士選抜試験
エルディカルド帝国の帝都から数十キロ離れた山地街道の空に魔法陣が浮かんだかと思えば、そこからフィオナとアダルの二人が落ちてきた。
すぐ下に地面があるとはいえ、落ちれば痛い。フィオナはバランスを崩した体勢のまま、魔法陣から放り出されたように落下した。
痛みを覚悟して両目を固く瞑るが…。
(……痛くない…?)
フィオナが現状を確認しようと、そっと目を開くと…なんと、フィオナのすぐ目の前にアダルの顔があった。
「!?」
あまりの至近距離に状況が飲み込めないフィオナは混乱して固まる。アダルがうんざりしたような顔をして、フィオナに冷たく言った。
「…早くどけよ」
「へっ!?」
アダルの言葉にフィオナは顔を動かして周りをキョロキョロと見た。そして自分が落下時にアダルを下敷きにして着地しており、そして現在そのままアダルの胸に抱き付くような体勢であることに気付いたのだ…。
「きゃああ!?」
フィオナは勢いよく飛び退いて、そもそも見知らぬ異性との関わり方に慣れていない彼女は恥ずかしさのあまりアダルに背を向けては真っ赤な顔を手で押さえていた。
どうやら二人は転移魔法でここまで運ばれてきたらしい。だとしても、扱いが雑なことで…。
アダルは無表情で上体を起こすと、何事も無かったかのように落ち着いた様子で衣服に付いた砂埃を払っていた。…しかし、フィオナは全く気付いていないが、アダルの耳は真っ赤に染まっていた。
「新しい受験者?」
そんな二人に声をかける者がいた。フィオナがそちらへ振り返ると、そこには自分よりも少し背の低い少年が立っていた。
フィオナは目を見開く。選抜試験に参加する者の中で自分も異質な部類なのだろうが、こんな少年も参加しているなんて…と思ったわけではない。
(…なんて、綺麗な男の子なの…!?)
そう、彼の造形美に圧倒されていたのだ。まるで神が直接お造りになったかのような完璧な顔立ち、まだあどけなさの残る愛らしさが彼の魅力をひとしお高めている気がする。
ふわふわと柔らかそうな茶色い髪に、この世の全ての青を詰め込んだような輝かんばかりの美しい碧眼。フィオナは我も忘れてその少年に見惚れてしまっていた。
「……お前は?」
そんなフィオナの代わりにアダルが少年に問いかけていた。
「僕も君たちと同じ受験者だよ。シャシャ・ブラウンって言うんだ」
よろしく、と笑って差し出してきたシャシャの手をフィオナは反射的に掴んで握手した。その瞬間フィオナは我に返り、慌ててシャシャにお辞儀をしては名乗る。
「フィオナ・アンダーソンと言います!」
そのすぐ後ろではアダルが立ち上がっているところだった。フィオナはアダルも名乗ると思っていたが、そんな事はなく…むしろ、喧嘩を売るような態度でシャシャに近付くと、上から見下ろし彼の顔を覗き込んでいた。
「…お前、只者じゃないな?」
アダルは確信に満ちた目でシャシャを見下ろし、そして警戒していた。
「…どうだろう? 僕も一受験者としてここにいるからね」
シャシャは愛くるしい顔でアダルの威圧をサラリと交わし、そう言って笑ったのだった。
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