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アダルから不穏な空気が流れ始めた時、どうやら他の受験者たちはフィオナ達がいる所よりも更に奥の方へ集まっているみたいで、そこから騎士が大きく張り上げている声が聞こえてきた。
見れば簡易的に建てられような…屋根は大きな天幕を張ったちょっとした建物が見える。
「わ、私たちもあちらに向かいましょうか…」
空気を変えるためにフィオナが明るく言うと、シャシャはニコリと笑って頷いた。
この際、誰彼構わずに悪態をつくアダルのことは放っておこうとフィオナはシャシャと共に移動することにした。
「フィオナって呼んでもいい? 僕のことはシャシャと呼んで」
シャシャがフィオナの隣に並び、横からフィオナを覗き込むような仕草を見せて言った。
「はい、シャシャ…」
「歳も近そうだし、気軽に話そうよ」
「う、うん…」
フィオナは戸惑いながらも返事をして、そして実感する。
(私、今…めちゃくちゃ緊張してる…!)
人は顔面だけでここまで他人をドキドキさせられるのかとフィオナはこの時に初めて知った。
「今いくつなの? 僕はこの前14歳になったよ」
「私はあと一ヶ月もすれば16歳になるの。シャシャは私の妹と同じ歳なのね」
そんな事を話しながらフィオナは義妹のことを思い浮かべていた。
(ジュリアンナは元気にしてるかな…)
気付けばフィオナが家を出てから一ヶ月が経っている。ジュリアンナは我儘で癇癪持ちでよく困らせられる事も多いけど、何だかんだで姉の自分を頼りにしてくれて甘え上手な妹だった。
ジュリアンナはよく使用人にさせるようにフィオナに自分の髪を結わせたがっていたがフィオナが居ない今、どうしているんだろう、とそんな事を思ったのだ。
「………」
「…フィオナ?」
物思いに耽っていたフィオナは、シャシャに声を掛けられたことで我に返った。
「あ、ごめんね。シャシャ」
「ううん…あ、魔力測定があるみたいだ。行こうか」
フィオナは気を取り直すとシャシャに頷いてみせて、魔力測定待ちの列に並んだ。
(……ど、どうしよう…)
フィオナは徐々に自分の番が近付いてくる中、不安いっぱいの表情を浮かべていた。顔も青褪めており、顔色が悪い。
(私も魔力量の基準に満たなかったら…)
フィオナが心配している理由は、先ほどから列に並んで他の受験者の魔力測定の様子を見ているのだが、殆どの者が失格の烙印を押されているのだ。どうやら合否の判定は厳しめのようである。
剣術や格闘術などは自分の努力で賄える部分もあるが、魔力量だけは違う。人がこの世に生まれた瞬間からその人が保有できる魔力の最大保有量は決まっていて努力で補えるものではないのだ。つまり、素質の問題である。
失格を告げられた受験者が逆上し試験官に食ってかかる場面をもう何度も見た。その度にその受験者は待機している騎士達に有無を言わさず取り押さえられていたが…。
「次、フィオナ・アンダーソン」
「ひゃい!?」
遂に自分の番が来てしまった。名前を呼ばれ、緊張のあまり間抜けな返事を返すフィオナ。
「フィオナ、頑張って」
シャシャの明るい声援に、頑張りようもないのだが…と言った気持ちになったが応えるように頷き、フィオナは恐るおそる試験官に近付いていった。
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