参 専属騎士選抜試験

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 結果は…ギリギリの合格だった。あと少しでも魔力量が足りなければ失格となっていたフィオナは、安堵からその場にヘナヘナと腰を下ろしたい気持ちだった。 「二人とも合格出来て良かったね」 「…あはは…そうだね…」  余裕綽々な様子で合格したシャシャとは違い、こちらは必死だ。二人の気持ちに差はあれど、合格は合格。ひとまず、フィオナの目標に一歩近づいた。  その時、試験官と騎士達がどよめきの声を上げていた。フィオナとシャシャがそちらに目を向けると、そこにはアダルが魔力量の測定をしていて…。 「…信じられない。この魔力量は…っ」  試験官の様子を見るに、アダルは稀に見る魔術師としての優秀な素質を持つ青年らしい。周りが驚愕する中、アダルは平然とした面持ちでそこに立っていた。どうやらこのような状況は慣れているらしい。  そんなアダルの様子と取り巻く周りの者の反応を見て、フィオナは少しだけ悔しく思った。 (別に彼と自分を比べても意味ないけどっ…)  名前を知る程度の仲だが、それでも他の受験者とアダルとで識別が出来ている分、そのアダルの自分よりも遥かに優秀な一面を見ると劣等感が湧き起こってしまう。  ふとアダルの赤い瞳と目が合った。 「っ…」  フィオナはその瞬間、緊張して顔を強張らせてしまうが…アダルは普段と変わらない無愛想な表情のまま、フィオナから目線を外す。まるで、眼中にないと言われているようで…。  少し落ち込む様子のフィオナにシャシャは気を使うように笑いかけて、手を差し伸べた。 「フィオナ、まだ試験は始まったばかりだよ」 「…うん…」  フィオナはシャシャの柔らかくて綺麗な手を握りながら思い直す。 (そうだよね…私は他人と自分を比べるためにここに来たんじゃない。人生を取り戻す…試験合格はその第一歩なんだ!)  その後、一日かけて試験が行われた。魔力量の測定に始まり、体力、筋力、魔法技術、剣術、組み手…などと数え切れない程の多岐に渡る試験項目があった。  時間が経つにつれて受験者の数が減っていく。その度に残った受験者の顔付きが変わっていった。  細かく細分化された試験項目に…第二皇子が本気で優秀な人材を発掘しようとしている意図を受験者達は理解し始めたのだ。もしかしたらこの選抜試験はお遊びではない、気まぐれではないのかもしれない、と…。  残った受験者の顔ぶれの中には、フィオナの顔もあった。ここまで残ったことに喜んでもいい筈なのだが、彼女の表情は暗く優れなかった。  周りの受験者は今更本気を見せ始めるが、フィオナは初めからこの試験に本気で合格するために臨んでいる。だからこそ彼女は、数々の試験項目に必死に喰らいついてここまで勝ち進めることが出来たのだ。  しかし…周りの受験者達はフィオナよりも優秀な者ばかりで…。 「フィオナ、暗い顔をしてどうしたの?」  共に合格してきたシャシャがフィオナの隣に着席し声を掛けてきた。配膳された夕食のスープをスプーンでかき混ぜながらため息を吐いていたフィオナの様子を見て心配してくれたのだろう。  フィオナは申し訳無さそうに笑うが、やはり自分が惨めに思う気持ちを隠す事が出来ずについ口走ってしまう。 「…シャシャは凄いね。私と違って、とても優秀な人で…」
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