参 専属騎士選抜試験

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 言った瞬間にフィオナはハッとして、慌てて自分をフォローする言葉を重ねて続けた。 「あ、ち、違うのっ…ちょっと疲れちゃっているみたい…!」  自分が恥ずかしくなった。まるで拗ねて八つ当たりする物言いだ。周りの優秀さに圧倒され自信を無くしていくフィオナは、今、他人ではなく自分と向き合い戦わなくてはならない。 「み、皆すごい人ばかりだから圧倒されちゃって…ここまで私が試験に残れたのも、運が良かったなぁって…!」  わざとらしく明るく振る舞いながら、フィオナは思ってもない事を口にしていた。  違う、運が良かったなんて思っていない。自分は必死に喰らいついて勝ち取った結果なのに…でもどうしてかそれを素直に喜べない自分がいる。  シャシャ、アダル…それにこの試験には参加していないがヒメロだって受験者の中にいる。彼らは間違いなくこの帝国を代表出来るほどの優秀な人物たちで、特出した取り柄もない自分とは違う人たち。  フィオナは自信を失い、心が折れそうになっていた。でなければ、こんな道化のような振る舞いなんてしない。  シャシャがジッとフィオナを見つめて、何か言おうと口を開いた時…。 「じゃあ、さっさと家に帰れよ」  冷たくそう言い放ち、配膳された夕食を持ってわざわざフィオナの前の席に腰を下ろしたアダル。  フィオナはその瞬間、ジワッと目の奥が熱くなった。 「運が良い(ラッキー)でここにいると思ってるなら、帰れ。俺たち他の受験者達のことを馬鹿にしてるのか?」  アダルの赤い視線が鋭くフィオナに向けられると、彼女はグッと下唇を噛み締めて何も反論出来なかった。 「お前…アンダーソン、とか言ったよな? 何でここにいんだよ?」  アダルの目は不愉快そうで、しかしフィオナにも彼がどうして自分に腹を立てているのか十分に理解しているからこそ、黙ってアダルの言葉を聞いた。  フィオナの先ほどの発言は、周りの受験者を貶すに値する言葉だったのだ。運良く合格したなんて事を言われたら、他の合格者達の立つ瀬がない。フィオナの失言だった。 「他人を僻むのは勝手だけどよ、お前のしけた面見るこっちの身にもなれ」  フィオナは俯いてアダルの言葉に耐えようと目を固く瞑った。テーブルの下で握られた拳…隣に座るシャシャは、その小さな拳が震えていることに気付いた。 「大体、お前の合格に不満を抱いてる奴もこの合格者の中にいるんじゃないか? 全てにおいて、ギリギリの成績だもんな?」  アダルの言葉が突き刺さる。フィオナの頭の中にカサンドラやジュリアンナ、エドモンド、そしてトニーやリオン…最後に父ジェイラスの顔が思い浮かぶ。 「か…帰れないっ…私は、この試験に合格して、そしてっ…!」  人生を取り戻すのだ。父が賜った男爵位を継いで領地も領民も自分が守る。ジェイラスが生前、そうしていたように…自分も父の後を継ぐ。  フィオナの目からは思わず涙が溢れてきて…耐えるように震え泣く彼女の姿を見て、アダルは鼻で笑うと意地悪な笑みを浮かべて言った。 「…合格して、なんだよ? もしかしてお前、第二皇子の愛人でも狙ってんのか?」  その瞬間、フィオナは怒りのあまりテーブルの上に乗り上がってはアダルに掴み掛かると、そのまま勢いよく後ろへ押し倒したのだった。
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