参 専属騎士選抜試験

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 * 「フィオナ」  フィオナが太い木の根に腰を下ろし、両足を抱えて星空を見上げていたらシャシャがやって来た。 「大丈夫?」 「う、うん…見苦しい姿を見せてごめんね」  今はシャシャの優しさも辛い…しかしフィオナは自分を心配してくれるこの心優しい少年を追い返すことは出来ずに苦笑いしながら受け入れることにした。  フィオナが少し横にずれるとシャシャがその隣に座る。 「…フィオナに事情があるように、彼にもきっと事情があるんだと思うよ」  シャシャが言った。 「それにしても、あの言い方はないけどね」  そして肩を竦めてフィオナの方へ顔を向ける。フィオナはシャシャの言う『彼』がアダルのことだとすぐに分かり、頷いた。 「私が悪かったの…」  反省している、アダルが怒っても仕方ないのだ。 「私、シャシャやアダルに嫉妬してた…」  当の本人に言う事ではないが、フィオナはシャシャの優しさに甘えて自分の気持ちを素直に吐露したくなった。  どうしてだろう、ヒメロには知られたくないと思ったのにシャシャになら打ち明けられる自分がいる。二人とも今日知り合ったばかりの人たちだというのに、何が違うのだろう…? 「私ね、この試験には自分の人生を全て賭けるつもりで臨んで来たの」 「人生を?」 「うん、私はアンダーソン男爵位を継ぎたい…その為にこの試験に合格し第二皇子様の騎士に任命されることは大きな第一歩なんだ」  フィオナはグッと小さく拳を握ってからシャシャにそう言った。 「…別に女性の爵位継承者はいるし、婿を取ればいいんじゃない?」  シャシャが素直な疑問を口にして尋ねてきたので、フィオナは悲しそうに笑って「普通はね」と答える。 「私のお母様…義理のお母様なんだけれど、どうやら私に男爵位を継がせる気がないんだ。貴族学院に通わせて貰えないし、デビュタントもしてもらえない。16歳になればすぐに嫁がせられる…私は、そんな人生に抗うの」  フィオナの決意の言葉にシャシャは小さく「そっか…」と相槌を打った。 「フィオナはなんで、男爵位を継ぐことに拘ってるの?」 「それは…」  フィオナは隣のシャシャに目を向けた。すぐにその青い目と見つめ合う。その目はとても真剣で、だからこそフィオナもはぐらかす事なく真剣に答えようと思った。 「『騎士たる者、たった一人の偉大なる主人に巡り合い仕えることこそが本分だ』と、父が教えてくれたから」  フィオナは先ほどの弱々しい表情ではなく、前を向き明るい表情で答えた。 「父の『偉大なる主人』は母だと言った。私は、騎士の主人は必ずしも高貴な方々ばかりではないと思ったの」  フィオナの言葉にシャシャは興味深そうな様子で耳を傾けていた。 「騎士は人を守る者のことでしょう? だから、ね。家族とか友人とか周りの大切な人がいて、そこに自分が愛するたった一人の主人がいて…私の父ジェイラスはアンダーソン男爵として周りの人々を守りそして騎士として主人である母に全ての愛を捧げて仕えた。私もそんな父の後を継ぎたい、それが私の夢」  恥ずかしそうにはにかむ笑顔を浮かべて語るフィオナにシャシャはニコッと笑って言った。 「そっか…素敵な夢だね」  フィオナはシャシャの言葉に嬉しくなり、少し照れながらも明るい表情で可愛らしく微笑んだ。
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