参 専属騎士選抜試験

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「…フィオナはさ、話を聞く限り実家であまり良い待遇を受けてこなかったわけでしょ?」  だからここに居るのだろうし、と続くシャシャの言葉に苦笑いを浮かべるフィオナ。 「自分が可哀想だと思う?」  そして続くシャシャの質問に、フィオナは顔を横に振って「ううん」と即答した。 「確かに悲しいことや悔しく思う事はあったし、自分の意思で受験する決意をしたけど…でも、沢山の人に助けて貰ったから今私はここにいるんだよ」  トニーやリオンには戦うための剣を、それに道中で出会った旅楽団には親切心を、そしてレイには勇気を…フィオナは貰って今ここに立っている。 「むしろ私は運が良いと思う!」  と、花が咲いたような笑顔で言う彼女にシャシャは思わず目を奪われてしまった。 (…いいな、この子…)  そしてそんな事を素直に思う。彼が知る貴族令嬢は皆、自分自身を可哀想で愛おしく見せることが得意な者たちばかりだ。その綺麗な涙で男を操ろうとする者たちばかり…。  フィオナの生い立ちならの恰好の材料となり得るのに、彼女は『自分は運が良い』と本気で思い太陽よりも眩しい笑顔で笑っている。  シャルルの胸の奥がザワザワと騒がしくなり落ち着かなくなった。  そんな彼の前ですぐに慌て出したフィオナ。 「あっ…! これは、さっきアダルに指摘されたラッキーって事を言ってるんじゃなくて…!」 「ふふ、分かってるよ」  狼狽えるフィオナにシャシャはクスクスと笑ってから、改めて彼女を見る。 (欲しいな。僕のことを『主人』に選んでくれないかなぁ…)  そんな事を考えていると、シャシャは無意識にフィオナの手を優しく握っていた。 「っ、シャシャ?」  シャシャの突然の行動にフィオナは頬を赤くする。シャシャも自分自身の行動に驚いているみたいで、目を丸くしていた。  フィオナが驚いて隣の彼を見ると、彼は身体ごとこちらに向かって、とても美しい笑顔を浮かべていた。 「いいなぁ…僕もフィオナの『たった一人の主人』になりたい」 「へ!?」  更に顔を赤くさせて驚くフィオナに、シャシャは可笑しそうに笑っていた。 (な、なんだ…揶揄われただけか…)  フィオナの先ほどの話を聞いた後に『主人になりたい』なんて言えば、それはもう告白も同然。知り合って間もないシャシャが、それもこんなに美しい彼が、何の取り柄もない自分の事など好きになる筈がないのに。
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