参 専属騎士選抜試験

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 *  翌日、割り当てられていた受験者用の一人用簡易テントの中で目覚めたフィオナは少し寝不足気味だった。 「…顔を洗おう」  昨日の夜は最後の最後に驚かされた。まさかシャシャがあの第二皇子シャルル殿下だったなんて…と、そこまで考えてから、顔を洗いにテントから出た。  試験会場には集団用の手洗い場が設けられているのだが、まだ早朝だからか起きてきている受験者たちの姿は少ない。  田舎育ちのフィオナにとっては、この起床時間は何らいつもと変わらない。おそらく都会出身の受験者たちはまだ夢の中なのだろう。 (混雑する前に来れて良かったかも)  フィオナはそんな事を思いながら蛇口を捻り、流れ出る水を掬うように両手を伸ばした。冷たい水で顔を洗うと目が覚める。支給されたタオルで濡れた顔の水を拭い、スッキリとした頭で今日の最後の実技試験のことを考えた。 (今日で決まるんだ…!)  絶対に合格してやる、という決意を固めてから昨日シャルルが言ってくれた『最後の試験を頑張れ』という激励を思い出す。  すると紐づる方式にシャルルが自分の頬にキスをしてきたことや、美しい微笑みを向けていた事なども思い出してしまった。  カァッと顔が熱くなる。 (そうだよね…あんなに綺麗な人、ただの平民なわけないのに…何で気付かなかったんだろう?)  フィオナの頭にシャルルの笑顔がこびり付いて離れない。ますます熱くなっていく顔に、フィオナはもう一度冷たい水で顔を洗ったのだった。  試験の時刻となりフィオナは他の受験者とともに試験官に指示された場所へ一列に並んでいた。こうして並んでみると、昨日は数え切れない程の受験者の数だったが今ではたった16名に絞られていることが分かる。  最後の実技試験は二人一組となり試合形式で戦うものだった。その組み合わせは試験官が試合直前に名前を呼んで決められていくという。  禁止事項は相手の命を奪う事、違反すれば即座に失格となる。それさえ犯さなければ、試合コートの中でなら遺憾無く自分たちの持つ力を発揮して良いとのことだった。負けの条件は、場外に出ることと地面に胸か背中が付くこと、そして降参した時だ。  試験官が説明を終えて横にずれると、騎士たちに囲まれたシャルルが姿を現した。受験者たちは騒ついて、シャシャ・ブラウンがシャルル皇子だったことに驚いている。  今のシャルルの姿は、シャシャの時とは違いとても綺麗な金髪だった。衣服も高級品を身に付け、シャシャの時も上品な少年だったが今では高貴さを醸し出している。  シャルルが受験者たちに対して激励の言葉をかける中、フィオナは皇子としての本当の姿をした彼に目が釘付けだった。その後方では、アダルが冷や汗を垂らして渋い顔をしていた。 (かっ……格好いい…!)  気を抜くとずっとシャルルから目を逸せない魔力が彼にはある。それだけシャルルは魅力的な少年だった。 (だ、だめよフィオナ! 今から最終試験なんだから、こんな浮ついた気持ちは良くない!)  フィオナはすぐに自分を律するため、強く自身の両頬を手のひらで叩いて気合いを入れる。  そんな様子のフィオナの姿を見て、シャルルはクスクスと笑っていた。
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