参 専属騎士選抜試験

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 ヴァンの試合の次に行われていた第三試合も終わり、次は第四試合の番となった。  名を呼ばれたのはヒメロ。そして相手は魔術師で、昨日の試験では見てない顔からヒメロと同じ基礎試験免除組のようだ。  フィオナは治癒術師であるヒメロがどう戦うのかとても興味があった。戦争で功績を上げたというから、何か得意な武具を使うのだろうか? などと考えていると第四試合が開始される。  魔術師はいきなり魔法を唱えて、ヒメロに向かって炎を撃ち放った。ヒメロはそれを軽やかに避けると、胸元から何かを取り出してそれを相手の魔術師に投げ付けた。 (ん? あれは…?)  フィオナは目を凝らして見る。ヒメロが投げたもの…それは植物の種子のような…。  ヒメロも魔法を唱えると、その種子が突然成長した。まるで鉄格子のように魔術師の足元から何本も伸びてくる植物に、彼も驚きを隠せず一瞬体が強張ってしまう。その隙に魔術師は身体ごと植物の檻に飲み込まれて、その檻は密集していきやがて一本の木になった。  あまりにも静かな攻撃に周りの皆が唖然としていたら…木の中からボォッと勢いよく火柱が立ち植物が燃えていく。中で魔術師は自分の身体ごと植物を焼き切ったのだ。  しかしヒメロに治癒魔法をかけ続けられている植物は焼け落ちたその部分から新たに芽を出して成長すると再び木となり魔術師を飲み込んでいく。  木から大木になり薄かった木皮は層を重ねて分厚くなっていった。それは段々と魔術師の講じる手段を奪い、中に閉じ込められた彼の退路を絶っていくのだ。成長していく木の隙間から魔術師の助けを求める手を伸ばすことが、彼に出来た唯一のこと。 「ま、参った! 助けっ…!」  悲鳴に近い叫び声に、目の前のヒメロは普段と変わらない優しくも上品な笑顔を浮かべて魔法を解いてやる。すると植物の成長は止まり、生い茂る青々とした葉が太陽光に照らされて木陰を作っていた。  周りの観戦者達は唖然とした表情で、その雄々しく鎮座する巨木を見つめていた。あれは植物ではない、もはや『生物兵器』だ。  試合は終わったというのに、誰もが微動だに出来ないでいるとヒメロが丁寧な口調で言う。 「この植物はで私の改良により宿主を捕食する速度が速いので、早く彼を助けてあげないと養分にされてしまいますよ?」  ヒメロの言葉に青褪めた顔の騎士たちが直ちに魔術師の救出に急いだ。厚くて硬い巨木の幹を斧で割り、中から引き摺り出されるように助け出された魔術師。彼に纏わり付く木の根を焼き払いながら、その試合は幕を閉じた。 (……えげつない…)  フィオナはヒメロの残虐性を目の当たりにした気分だった。あぁも普段と一切変わらない様子で人を植物の養分にしてしまえるものなのだろうか。  フィオナが怯えた気持ちでコートを後にするヒメロを見つめていると、彼の藤花色の瞳と目が合う。するとヒメロはフィオナに向けて朗らかな笑顔で手を振ってきた。  フィオナは青褪めた表情でぎこちない笑顔を浮かべながらも手を振り返す。ヒメロに対しての恐怖心が上がった。
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