参 専属騎士選抜試験

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 そんなこんなで試合は第六試合まで終わった。残るは後二試合…まだ名前を呼ばれていないのは、フィオナとアダルを含めた四名だった。 「次、フィオナ・アンダーソン」  ついにフィオナの名が呼ばれる。第七試合の対戦相手は誰だろうと不安になりながらも、誰が来ても負けないと気合いを入れて、フィオナはコートへ向かう。 「アダル・ブラッドリー」  ついに呼ばれたフィオナの対戦相手。フィオナは一瞬頭が真っ白になり、歩み進めていた足を止めた。  フィオナが目を向ければ自分と同じようにコートに向かうアダルの姿が。その様子を見て急に心臓がドクドクと激しく動き始めて緊張してきた。  再び歩みを進めてコートに到着するフィオナ。目の前に立ちこちらを見下ろしてくるアダルはいつもと変わらない涼しい顔をしていた。  試験官の試合開始の合図にフィオナは剣を抜く。緊張のあまり、手の感覚があまりない。血の気が引いていく頭で、アダルの攻撃をしっかりと受け止めることは出来るのだろうか? 自分がアダルに勝てるのだろうか…?  フィオナの視界の端にこちらの様子を見守るシャルルの姿が入った。 (…シャシャ…) 『僕の事を諦めないでね』  昨日の夜、シャルルにそう言われて何のことか分からなかったけど…フィオナはギュッと剣の柄を強く握ると叫んだ。 「やぁああ!」  そして剣を振り上げてアダルに向かって突進する。 (攻撃を受け止めるんじゃない、自分から攻撃して攻めるんだ!)  皇子殿下に言って貰った言葉を大切にしたいと、フィオナはアダルから勝ちを捥ぎ取るために受け身の考えを捨てたのだ。  アダルが気に食わなさそうな顔をして何かを唱える。激しい冷気がフィオナを襲う中、彼女は決して怯むことなくアダルに向けて剣を振り下ろす。  ギィイン、と硬い物質が擦れ合う音が響いた時、フィオナの先手攻撃はアダルが魔法で作り出した氷の剣によって防がれていたことを知った。  アダルは更に魔法を発動させて、フィオナのガラ空きとなっている脇腹に氷の礫を撃ち放った。フィオナも負けずに魔法を発動させて空気中に電気を発生させると礫の軌道を変えて、致命傷を避けた。とは言っても、あまりの至近距離だった為、攻撃自体は免れなかったが…。 「っ…」  まるで硬い拳で腹を殴られたような痛みにフィオナは顔を歪めながらも、アダルに向けて雷魔法を放った。フィオナが一番得意な魔法だ。筋肉を萎縮させる程度の威力だが、現状であれば十分効果的だ。  フィオナの目論み通り、アダルの動きが固まったので、その隙に今度は自分に雷魔法を使い自分の筋肉を無理矢理動かした。  フィオナは他の受験者と比べて圧倒的に力がない。だからスピードでカバーするしか無い。ジェイラスとトニー仕込みの剣術を以て、スピードが高まったフィオナの連続攻撃がアダルを襲った。  実力差がありながらも、意外とちゃんとした試合になっている事にヒメロは感心していた。 (何が彼女をあそこまで突き動かしているのか…)  そう思いながら、二人の試合の行く末を見守っていた。  試合の決着は一瞬でついた。フィオナの猛攻に対し、アダルは動けない体で魔法を発動させると氷の剣に熱を加え蒸気を発生させた。勢いよく噴射された蒸気に視界が悪くなったことで、フィオナがアダルの姿を見失い一瞬でも足を止めた隙に、土魔法で彼女の足を捕捉する。  拘束された彼女はそのまま転倒させられ、地面に背中を打ち付けてフィオナの負けとなる。  はぁ、はぁ、と荒く息を弾ませるフィオナは今自分の身に起こったことを理解出来なかったが、目の前に快晴の空が広がっていることで悟った。 (…私、負けたんだ…)  快晴の空が滲み、涙で潰れていった。
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