参 専属騎士選抜試験

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 *  フィオナの負けが決まると、すぐに次の試合の準備が為された。第八試合、この実技試験の最後の試合だ。  フィオナは上体を起こし涙を拭ってから立ち上がると、トボトボとコートから去る。顔なんてあげられなくて、シャルルの視線を感じてはいたが自分の意思で目を合わさなかった。  ヒメロは落ち込むフィオナに声を掛けようか悩んだが、今はそっとしておいて欲しいだろうと思い声を掛けないでいた。  暫くして第八試合の勝者が決まると試験官が受験者達に通知する。 「これで試合は全て終了しましたね。では、この後の手続きもありますので、城へ戻りましょう」  敗者であるフィオナ達も何故か城に向かうという事で、受験者16名は用意されていた馬車に乗り込み帝都へ向かったのだった。  馬車は全部で5つ用意されていた。シャルルが使う皇族用の馬車と、受験者用の馬車が4つ。  フィオナはその一つに乗り込み、その後に他の受験者3名も乗り込む。 「嬢ちゃん、頑張ってたな」  乗り込んで馬車が動き始めた時、一人の男がフィオナに話しかけてきた。驚いて見ると、その人物はヴァン・ヴォルフと戦った戦斧使いの男だ。  確か、名前は…。 「ジャスパー・ウエルさん…」  フィオナが彼の名を呟くように呼ぶと、ジャスパーはその屈強そうな顔立ち似合わない明るい笑顔でニカッと笑う。 「おう。嬢ちゃんは確か、フィオナ…だよな!?」  フィオナが頷くと握手を求められたので、そのゴツゴツとした大きな手を握る。すると、力強く握り返された。 「俺は何も出来ずに気を失って負けちまったからなぁ…それに比べると、フィオナはあの魔術師の少年相手によく食らい付いていた。格好良かったぜ」  負けた俺に言われても嬉しくないかもしれないが…と、最後に苦笑いで自虐するジャスパー。  フィオナはそんな事ない、と首を大きく横に振った。 「確かに。俺も初めはこんな女の子が受験しているなんて、舐めてんのかって…正直気分は良くなかったが、見直した」  ジャスパーに続き、他の二人もフィオナに声を掛けてきた。 「ところであの雷魔法の使い方は独自で編み出したのか? 威力の高い広範囲の攻撃魔法をあのように器用に使うなんて、いい発想をしている」  見れば彼らは第一試合で戦っていた双剣士と、ヒメロの対戦相手の魔術師だ。  それぞれ、グレン、カーシスと名乗っていた。 「雷魔法の使い方は、父に教えて貰ったんです。この方法であれば、魔力量が少なくてもそれをカバー出来るし、肝心の剣術とも相性が良い、と」  カーシスの質問に答えながら、フィオナはジェイラスの顔を思い浮かべた。ジェイラスも今日の自分の試合を見て、褒めてくれるだろうか…なんて事を思いながら。  カーシスは魔術師だからか、とても興味深そうにフィオナの話に耳を傾けていた。そんな中、ジャスパーが「俺たちは、」とこの場を代表するように言う。 「負けちまったが、それでも得るものがあった!」  グレンとカーシスはジャスパーの言葉に頷いていたが、フィオナは悲しそうな顔で笑っていた。  彼らには次の機会があっても、自分には無いのだ。領地に帰れば、自分は…。 (…羨ましいな…)  そんな事を思い窓から外を眺めた時、ガタン、と馬車が突然止まる。  驚くフィオナ達の耳に、前方を先導していた騎士の怒声が聞こえてきた。 「盗賊団だ! 殿下をお守りしろ!」
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