参 専属騎士選抜試験

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 フィオナ達はお互いを見合って、そして緊張感が走る中で自分たちの武器を手に取る。窓から外の様子を伺うと、確かにこちらの一行を取り囲むように武装した盗賊団が岩陰や草むらから姿を現していた。…とてもじゃないが、尋常じゃない数だ。  フィオナはその盗賊団の脅威に心臓がヒヤリとした。ただの馬車ではない、皇族の証が付いた馬車なのだ。それを分かった上で襲うということは…。 (…シャシャ…!)  彼らの目的はシャルルだ。  フィオナはギュッと剣を握り締めてから、ジャスパー達に言った。 「私は、シャルル殿下をお守りする為に前方へ向かいます!」  するとフィオナの言葉にグレンが驚いた顔で返す。 「この数相手にか? 自殺しにいくようなもんだぞ!」  フィオナは馬車の扉の前に立つと、後ろを振り返り男三人に向けて緊張しつつも笑顔を浮かべて言った。 「私、これでも男爵令嬢なんです! 貴族ならば、たとえ端くれでも皇族をお守りする義務がある!」  ポカンとした表情で彼女を見上げる三人に、フィオナは続ける。 「…それに、こんな私にも優しくしてくれたシャシャが傷付くのは嫌なんです…」  心なしかフィオナの顔は赤くなっていた。昨日知り合ったばかりの間柄だけれど、フィオナはシャルルが皇子殿下だと知る前までは本気で友達だと思っていた。フィオナは恥ずかしそうに笑ってから、そのまま馬車を降りて行ってしまったのだった。 「……愛かなぁ…」  ジャスパーがフィオナが立ち去った後の扉を見つめながら呟くように言うと、カーシスが「どうだろうなぁ…」と気の抜けたような返事をして、グレンに「どう思う?」と尋ねる。 「知らんよ。それより、ほら。俺たちは俺たちで身を守る準備をしよう」  グレンは呆れたように息を吐きながら言った。  フィオナが馬車の外へ出ると、騎士と盗賊達の戦闘は始まっていた。盗賊の数に比べて、圧倒的に騎士の数が足りない。 「フィオナ嬢!」  前方を目指すフィオナに後ろから声が掛けられる。 「ヒメロ様!」  その声の主はヒメロで、フィオナに並走するように並ぶと「シャルル殿下の元へ向かうのですか?」と尋ねてきた。  その時、二人に向けられて盗賊の一人から弓矢が放たれる。ヒメロがフィオナを庇うよりも早く、矢はフィオナの目の前にまで飛んできた。  避けられない、と思い死を覚悟した瞬間、その弓矢が凍り付き勢いを無くして地面にぽとりと落ちた。 「戦場で馬鹿面してんじゃねぇぞ」  アダルだった。助けてくれた事には感謝するが、この男の物言い…素直に礼を言いたくなくなる。 「君は何故そんな言い方を…」 「けっ」  呆れた様子のヒメロに悪態をつくアダル。  やはりアダルは気に食わない男で自分とはどうしても合わない仲らしいが、それでもこうして外にいるという事は、アダルもシャルルを守る為にやって来たのだ。今は喧嘩している場合ではない。 「君には言ってやりたい事がたくさんあるけど…今は協力し合いましょ!」 「アダルよりフィオナ嬢の方が大人ですね」  ヒメロの追撃にアダルは何も言い返せないみたいで、拗ねた顔付きで黙った。  フィオナ達がシャルルの乗る皇族用の馬車に到着すると、盗賊達の集中攻撃を受けている光景を目の当たりにした。 「おう、やっと来たか」  いち早く到着し、騎士と共闘していたらしいヴァンが三人に気付いて声を掛けてくる。 「この馬車は捨てた方がいい。殿下を連れて早く逃げろや」  ヴァンは自信に満ちた顔で笑いながらそう続けた。
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