参 専属騎士選抜試験

16/19
前へ
/60ページ
次へ
 フィオナは緊張の糸が切れ、腰が抜けてしまいへなへなとその場にしゃがみ込む。 「フィオナ? 怪我でもした?」  驚いて声を掛けてくるシャルルに、フィオナは目にジワッと涙を浮かべながら震える声で言った。 「わ、私…シャシャに危険が、迫ってると思って…必死でっ…」  と、震える彼女を愛おしそうな目で見たシャルルは「あぁ、もう…!」と何かを我慢出来なくなった様子でフィオナを抱き締めた。その顔はとても嬉しそうに、はにかむ笑顔を浮かべている。 「守ろうとしてくれて、ありがとう」  そしてすぐにシャルルの腕から解放されるフィオナ。フィオナは突然抱き締められた事で、驚きのあまり涙は引っ込んでしまった。ポカンとした表情で目の前のシャルルを見上げている。 「あ、泣き止んだね」  そう言ってシャルルは、まだフィオナの目の端に溜まっている涙を指で拭ってやり、そして楽しそうに笑っていた。 「…えー、これより。シャルル皇子殿下の専属騎士を発表します」  馬車から降りて来た試験官が咳払いをして切り出した。 「合格者はヴァン・ヴォルフ、ヒメロ・ミリシアン、アダル・ブラッドリー。そして、フィオナ・アンダーソン。以上、四名です」  他の受験者達が馬車から出てきたところで試験官が声高らかに合格者を発表する。 「殿下の側近となるには、やはり窮地に陥った時にどれだけの忠誠心を見せられるかが大事ですからね」  自分の身を案じて馬車から出て来なかった受験者達は気まずそうな面持ちで下を向いていた。  相変わらず地面に座り込むフィオナにヒメロが近付いてきて手を差し伸べた。そんな彼にフィオナは青い顔で笑う。 「そ、それが…腰が抜けて…」  立てそうにもないです…と、恥ずかしそうに答えるフィオナにヒメロは思わず声を上げて笑った。 (こんなに笑ったのは久しぶりだな…)  ヒメロはそんな事を思いながら、誰よりも必死にそしてなりふり構わずに足掻いて奮闘する…今はどう見ても小動物の、震える子ウサギにしか見えない少女の中にこのような爆発力が秘められているなど信じられないと思った。  そして自分の中で芽生え始めたなにかを感じ取っていた。 「レディを手助けするのも、紳士の務めです」  ヒメロは紳士然とした態度でフィオナに笑いかけ、そして、まるで踊るような優雅さで彼女を横抱きにし抱き上げた。 「…僕の馬車に乗せてあげて」  横でシャルルがヒメロに指示をする。ヒメロはお辞儀をしてから、指示通りにフィオナをシャルルの馬車に乗せた。そんな彼の背中を見つめて、シャルルはむぅ、と悔しそうな顔をしていた。 「僕も体を鍛えようかな…」  そんな事を言いながら、自分の細くて柔らかな白腕を恨めしそうな目で眺めるシャルルだった。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加