参 専属騎士選抜試験

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 * 「——お気に召されましたか?」  選抜試験の実技試験までの行程も終わり帝都へ戻る道中の馬車の中、今回の全試験監督を任されていた試験官ザフェル・コリンが目の前のシャルルに尋ねた。ザフェルはシャルルの補佐官でもある男で、第二皇子の目に留まり引き抜かれる程の秀才だ。  ご機嫌な様子で窓の外を眺めていたシャルルがザフェルに顔を向けた。 「うん、満足だよ。この国は優秀な人材で溢れている。貴族に限らず…父様や兄様もそれに気付くべきだね」  シャルルの意見にザフェルも頷く。  この国では基本的に『平民』は『貴族』に使われる人材として考えられている。だからこそ平民がこの国で出世できる限界値は決まっているとも言えた。 「…ジャスパー・ウエルなどがいい例ですね」  ザフェルは眼鏡を掛け直しながらとある受験者の事を思い出していた。  ジャスパー・ウエル、東部の国境沿いにある小さな村で木樵(きこり)をしていた男だ。本日持参していた戦斧は武器でも何でもなく、彼の商売道具である。日夜、魔獣の棲む深い森の中で木を切り倒し続けてきた男。確か、ジャスパーの故郷の領主である伯爵は上質な木材を市場で売り捌き財を築いている。 「彼には戦士としての資質と才能があるし、基礎能力も高い。木樵として一生を終えるには勿体無い人物です」  ジャスパーは不運にも自身が不在の時に魔獣の群れに村を襲われ家族を全員亡くしたと聞いた。僅か8歳の娘もいたという…一夜にして天涯孤独となった彼が何故この試験を受けにやって来たのか想像はつく。きっと復讐してやりたいのだ、家族を奪った魔獣に。  今回の試験は、シャルルが14歳の誕生日に父皇帝に強請って実現したものだ。ジャスパーを始めとする最終試験に残った受験者16名は、丁寧に丹精込めて育てればきっと帝国が誇るタイタン騎士団に匹敵するほどの潜在能力とのびしろを持つ者たちばかりだった。 (それがもし実現されるならば…)  この選抜試験をシャルルのただのお遊びだと軽く考えている父皇帝は驚きで度肝を抜かれるだろうな、と想像し、ついほくそ笑むザフェル。何故ならシャルルは本気で自分の騎士団を作ろうとしているからだ。 「彼もそうだけど、………」  そんな中、シャルルは独り言のように言いかけてから口を閉じた。ザフェルはそんな主人を見つめながら「フィオナ・アンダーソンですか?」と尋ねる。シャルルが観察するような目でチラリとザフェルを見た。 「…昨日から、どうやら殿下は彼女にご興味がある様子でしたので」 「まぁ…そうだね。初めは本当にただの好奇心」  シャルルは昨日の事を思い出していた。転移魔法によりアダルとともに現れたフィオナ。シャルルは彼女の姿を見かけた時、正直不愉快だった。  自分が理想とする王国に不純物がひとつ混ざったみたいな。無知で無力な少女がこの試験を冷やかしにでも来たのか、と思うのと同時に彼女がこの試験に参加する理由を知りたくなった。
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