肆 任命式

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肆 任命式

 晴れやかな空に爽やかな春風が吹いていた。  今日は朝から、帝都にいる貴族たちが皇宮を訪れるための馬車の長蛇の列が並んでいて皇宮内はいつも以上に人が賑わっていた。  帝都に住む平民たちもどこかそわそわとした様子だった。何故なら——。    ——帝国では今、大きな式典が開かれている。 「僕の知識アダル・ブラッドリー。僕の武力ヴァン・ヴォルフ。僕の加護ヒメロ・ミリシアン。そして僕の忠誠フィオナ・アンダーソン」  白と青を基調とし金装飾があしらわれた神聖さが際立つ正装姿のシャルルが、白銀と青の騎士服に身を包みこちらへ(かしず)く四名の騎士に微笑みながら続ける。 「シャルル・ド・リュカディオンは貴方たちを我が騎士として迎え、そして貴方たちの忠誠を受け入れよう」  よく通る声でそう宣言する。その瞬間、参列していた貴族達から拍手が沸き起こった。  選抜試験から二週間後の本日、試験を無事に合格したフィオナ達の騎士任命式であった。  皇宮の中にある大きな聖堂で、天井に広がるステンドグラス越しに眩しいくらいに差し込む太陽光を浴びながら、フィオナは胸を高鳴らせていた。  傅きながらも手が自然と胸元に当てられる。その胸には黄金で出来たブローチが輝いていた。フィオナだけでなく、そのブローチは他の三名の胸元でも輝いていたのだった。 『アダル、ヴァン、ヒメロ、フィオナ』  任命式の前にシャルルに呼び出されていた四人は第二皇子の城、サファイア宮にある彼の自室を訪れていた。  そして、そこでシャルルより与えられたものは…彼が将来受け継ぐリュカディオンの紋が彫られた純金で出来た一級品のブローチだったのだ。 『君たちが僕のものだっていう証だよ』  シャルルが愛らしい笑顔で微笑みながら彼らの胸元に自らの手でブローチを付けてやる。すると四人の表情は引き締まっていった。 『さ、行こうか。僕の騎士たち』  シャルルの言葉に四人は頷き、そしてこの任命式の会場に向かったのだった。  つい今朝のことを思い出して、フィオナは小さく笑う。そして、思いを馳せる。 (お父さんもここで、こうして騎士になったのかな)  顔を上げると、すぐにシャルルと目が合った。  柔らかなそうな金髪にこの世の全ての青色(ブルー)を詰め込んだような幾重にも輝く青い瞳。誰もが熱いため息をついて天使だと称賛する彼の美貌に、フィオナは思わず目を細める。 (…こうして、主君に忠誠を誓ったのかな…)  神々しいくらいの光を浴びて微笑むシャルルを視界に捉え、フィオナは自分の目の奥が熱くなっていくのを感じた。  自分の人生はここから一歩ずつ始めるのだと胸の奥に決意を秘めて、フィオナは今日、シャルルに忠誠を誓ったのだった。  * 「あぁ…首が苦しいぜ…」 「息苦しい」  場所は変わり、彼らは聖堂から宴会場へと移動していた。  任命式も終わり、現在はフィオナたちの歓迎パーティーの真っ最中である。とはいえ、それはあくまでも建前上なものでありパーティーの主役はシャルルだった。 「服の乱れは心の乱れですよ。ヴァン、アダル」  制服の襟首のボタンを外したそうに顔を歪めるヴァンとアダルが根を上げる度にこうしてヒメロに指摘されるものだから、平民二人は彼の口を塞いでやりたい気分だった。
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