壱 弱者の挑戦

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 貴族とはいえ、そんな周りに誇れるような大した家門でもないしジェイラスも元々は平民であることからフィオナはこの田舎で領民達と共にのびのびと健やかに育った。  フィオナの母が天に召されてから、ジェイラスが娘に教えてあげられることは剣術しか無かったので彼は幼い娘に剣を教えた。  そうして、フィオナが父親と幸せな日々を暮らしながら成長し12歳となる頃、長年に渡り再婚を拒んできたジェイラスは貴族の作法ひとつ知らない娘のために貴族女性と再婚することを決める。  その時にアンダーソン家へやって来たのが前夫に先立たれ未亡人であったカサンドラとその娘ジュリアンナで、ジェイラスとフィオナは彼女たちを快く受け入れたのだった。  フィオナは二人の新しい家族を迎えて、これからももっとたくさんの幸せを得られると思っていた。  新しい母は美しく気品があって優しいし、二つ下の妹は少し我儘だがそれも許せるほどにとても愛らしい。  再婚して一年目は、それはもう理想的な家族だったのだ。  狂い出したのは二年目、フィオナが13歳から14歳になろうとする年に父ジェイラスが魔獣に襲われそうになった領民を庇い重傷を負い、それが原因で亡くなった。  愛娘と新しい妻と娘を残し先立つジェイラスは、死ぬ寸前までフィオナの幸せを願いながら息を引き取ったのだった。  アンダーソン家は突如大黒柱を失い、家族皆が悲しみに包まれる中、フィオナの更なる不幸はこの日から始まった。  優しかったカサンドラが豹変し、それまでアンダーソン家に仕えてくれていた数人の使用人を全員解雇したかと思えばその仕事の全てをフィオナへ押し付けた。  エルディカルド帝国の貴族は15歳になると帝都にあるリーデル貴族学院に通うことが通例なのだが、フィオナは家事を理由にカサンドラから通学を認めて貰えなかった。  フィオナがアンダーソン家の正当な血統者であったとしても、帝国法で成人年齢16歳以下は保護者または後見人の保護下に下るため、カサンドラの意向を無視して勝手に入学することは許されず従うしかなかったのである。  フィオナが家事に追われる毎日の中、妹のジュリアンナはカサンドラより貴族令嬢に必要な教養を学び、再来年、彼女が15歳になる年にはリーデル貴族学院へ通うことがカサンドラによって既に決定している。
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