肆 任命式

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 そんな二人のやり取りを聞きフィオナが可笑しくてクスクスと笑っていると、後ろから誰かが自分の肩にポン、と手を乗せてきた。 「みんな、パーティーは楽しめてる?」  それはシャルルで、フィオナが驚いて振り返ると彼とすぐに目が合った。 (『みんな』と言いながら、どうして私を見てくるんだろう…?)  そう不思議に思いながらも、フィオナはすぐに笑顔を浮かべてシャルルに頷いた。 「デザートがとても美味しいです!」  皇宮のデザートはどれも、フィオナが今まで食べてきたどの甘味よりとろけるような美味しさだった。実はもう既に三つもケーキを食べている…。 「それなら良かった」  シャルルは嬉しそうに笑顔を返すと、フィオナの顔を見て何かに気付いたようだ。 「…ところで、フィオナの口端にクリームが付いてるよ?」  そう言いながらシャルルがフィオナの方へと手を伸ばしてきた。  フィオナは「え?」と呆けた顔をしたが、すぐに理解したのか慌てて自身の手で口元を拭う。シャルルの手は、フィオナに触れる前に止まった。 「は、恥ずかしい…!私、そんなにデザートにがっついているつもりでは無かったのですが…あはは…」  フィオナは顔を赤らめて恥ずかしそうに顔を伏せていた。シャルルが改めてフィオナにハンカチを貸してあげようと伸ばしていた手を戻しポケットに入れると、その隙にヒメロがフィオナにハンカチを渡している。 「…………」  シャルルは、フィオナがヒメロのハンカチを有り難そうに受け取っている光景を見ながら微かな胸騒ぎを感じていた。 「お前はさっきからがっついてんだろ。ケーキ三つは食べてる、俺は見てた」 「ちょ、言わないでよ!」  アダルがフィオナを馬鹿にするように鼻で笑うので、フィオナは悔しそうな表情でアダルを見ている。 「…それだけ、パーティーを楽しんでくれているって事だよね。フィオナ?」  シャルルは咄嗟にアダルとフィオナの間に割り込むように会話に加わった。自分も何か喋らなくては。そんな事を思いながら…。 「…俺はそろそろ帰りたいです」  正直な男アダルはムスッとした表情でシャルルに言った。シャルルは困ったように笑って「もう少しでこのパーティーも終わるから、我慢してね」とアダルを宥める。 「アダル。お前は酒を飲まねぇから楽しくないんだよ。ほら、飲め」  ヴァンが今手に持っているワイングラスをアダルに渡そうとした。  シャルルはこの時、皆の意識がフィオナからアダルに向けられた事にホッと安堵している自分に気が付いたのだ。 (もしかして僕…今、焦っているのか…?)  自分がそこまで他人に執着するタイプの人間でない事はよく分かっている。それなのに…。 (…参ったなぁ…)  こうして実感すると、余計に身に染みる。シャルルは自分の顔を隠すように思わず手で口元を覆い、そして顔が熱くなっていくのを感じていた。 「いやだ。酒は変な気分になるから、あまり好きじゃないんだ」  アダルはとても嫌悪した表情でヴァンが手渡そうとしてくるワインを拒否している。すると、フィオナが前に出てきてヴァンに言った。 「じゃあ、私がそのお酒を飲むよ」 「?フィオナ、お前はまだ未成年だろ?」  未成年に飲酒は勧められない、と答えるヴァンにフィオナは得意げに胸を張ってみせる。 「大丈夫。私、今日で成人したから!」  そう。実は今日、フィオナの16歳の誕生日なのだ。  その時、「えぇ!?」と大きな声がした。フィオナが驚いて振り向くと、そこには何故か青褪めたシャルルの姿が。 「…フィオナ…今日、誕生日なの…?」 「は、はい…そうですが…」  フィオナの答えを聞いた瞬間、シャルルの表情は青を通り越して白…つまり、絶望の色に染まった。
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