伍 皇族と騎士

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伍 皇族と騎士

 騎士フィオナの仕事はシャルル皇子の護衛だ。基本的に交代制で任務につき、朝から晩までシャルルが眠る間も護衛任務を行っている。  騎士になって1ヶ月、今日のフィオナは非番だった。 「アンダーソン卿!」  騎士たちの訓練所で訓練に励んでいたフィオナが一休みしていると、親しみを込めた笑顔を浮かべてこちらへ近寄ってくる大男がいた。 「あ、ウエルさん」  騎士選抜試験の時に知り合ったジャスパーだった。 「俺たちもいるぞ」 「お久しぶり」  ジャスパーの後ろからひょっこり姿を現したのはグレンとカーシス。  あの試験の日、敗者として同じ馬車に乗り合わせたこの四人は不思議な仲間意識が芽生え、その後も何かと交流を続けていた。  実は、最終試験に残った16名は専任騎士に選ばれなかったにしろ皇宮の騎士としては合格していた。ジャスパーたちのように、それを受け入れる者もいれば辞退する者もいたが…。  だからフィオナ達は所属は違えど同じ皇宮騎士の同僚なのだ。 「アンダーソン卿は、今日はお休みかい?」 「もう、そんな堅苦しくせずにフィオナと呼んでくださいよ。はい、お休みなので今日は鍛錬でもしようかと…」  ジャスパーはニカッと笑って「じゃあ、俺のこともジャスパーと呼びな」と言ってから、フィオナを昼食に誘った。 「俺たち、この後昼飯を食べに城下町におりるんだが…一緒にどうだ?」  フィオナは少し考えてから、この後はどうせ部屋で一人読書をしようと思っていただけだし。と、笑顔で頷いてそれを了承する。 「じゃあ私、着替えてきます」  フィオナはそう言いながら帰り支度を整えてジャスパーたちと別れた。後ほど、騎士宿舎寮の入り口前で落ち合う事になっている。  フィオナはヒメロの屋敷を出て、皇宮内にある騎士宿舎寮に与えられた部屋で生活をしていた。  寮といっても、共有スペースなどはなく部屋は各自独立した作りでアパートに近い。その為、男女に分けられている事もなく、皇宮に勤める騎士であれば希望すれば部屋を借りられるのだ。  常駐管理人もいるので、環境的にはとても良いと言えるだろう。毎月家賃はかかるが、しかし、帝都でアパートを借りるよりは遥かに安い。  アダルは駄々を捏ねてそのままヒメロの屋敷に留まっているが…。  ヴァンは元々、歳の離れた弟と妹の三人で宿暮らしをしていたらしいのだが、ヒメロの好意で紹介して貰った不動産屋から治安の良い区域の小さな家を買ってそこで暮らしている。  ヒメロの屋敷を出ると言ったフィオナに、自分の家に来るかとヴァンに声を掛けて貰ったが、彼女はそれを断っていた。 (厄介になってたら、それは独り立ちとは言えないもんね)  フィオナは彼女なりの矜持で大人になっていきたいと考えていた。
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