伍 皇族と騎士

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 寮の部屋に戻り、備え付けのシャワールームで汗を流す。  濡れた髪を魔法である程度の水分を飛ばして、外出用のワンピースを着た。 「あれ、フィオナ。出掛けんの?」  部屋を出たところで、ちょうど隣の部屋に住む女騎士シャナと鉢合わせた。背が高く手足が長いスレンダーな体型で、赤髪の綺麗な女性だ。 「まさかシャナ、今帰ってきたの? 朝帰りどころか、もう昼間だよ」  この騎士宿舎寮に不満はないフィオナだが、隣の部屋に住むシャナの素行には不満を持っていた。 「私、今日は夜勤だもーん」  と、ヘラヘラと笑いながら部屋の中へと入っていったシャナ。 (仕事は真面目に取り組んでるらしいけど……なんだかなぁ…)  フィオナはため息をつきながら、自室の鍵を閉めてジャスパーたちとの待ち合わせ場所へと向かう。  ジャスパーたちと合流し、さっきまでいた騎士訓練所の前を通って皇宮の裏門まで向かっていたフィオナは急に足を止めた。  何ごとかとジャスパーたちも足を止め、そして目の前からこちらへ歩いてくる人物の姿を見ると慌てて頭を下げた。 「いい。この場は非公式なのだしそんなに畏まらないでくれ」  その人物はシャルルの歳の離れた兄ロイド・エル・エルディカルド皇太子だった。今年22歳になる彼は、去年結婚し皇太子妃を迎えている既婚者だ。  ロイド皇太子は剣術が得意な皇子で、よくこの騎士訓練所に訪れては騎士たちと手合わせする姿を見る。 「それに、そちらの女の子は…シャルルの専属騎士の子だな!」  シャルルとは違う男性的な美貌を放つロイドに話しかけられたフィオナは「フィオナ・アンダーソンと申します」と、令嬢としての不慣れなカーテシーではなく騎士として敬礼をしながら答えた。  フィオナの名を聞いたロイドが「アンダーソン…」と呟いて納得いった顔をする。 「最近、俺の騎士たちも騒いでいたが、君がそのアンダーソン卿の娘なのか!」  しっかりとシャルルを守ってやってくれ。と、太陽のようにカラッとした明るい笑顔を浮かべるロイドに、フィオナは緊張しながらも「はい!」と頷いた。  ロイドは再び歩き出して、フィオナ達の横を通り過ぎていった。フィオナ達も歩き始める。 「それより、お店はどこなんですか?」 「行ってからのお楽しみだ。俺が最近見つけた店なんだが…そこのオイル漬けのニシンを使った料理がどれも最高なんだ」  歩きながらフィオナが彼らに尋ねると、グレンが得意げな顔で答える。  フィオナは「へぇ〜」と相槌を打ち、楽しみにしながらジャスパーたちと共に道の先へ進んでいった。  ふと、足を止めたロイドが振り返った。 「…それにしても…どこか見覚えのある…」  その目には立ち去っていくフィオナの後ろ姿が映し出されていて…。 「ロイド殿下?」  控えていた護衛騎士に話しかけられたロイドは「なんでもない」と答えて、前を向くと再び歩き出したのだった。
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