伍 皇族と騎士

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 *  夕食、シャルルは家族と共に食事を取っていた。父と兄が政治について意見を交わす内容に耳を傾けながら食事をしていると…。 「そういえばシャルル。昼間、お前の専属の女騎士に会ったぞ」  と、ロイドに話しかけられたのでシャルルは顔を上げた。 「…フィオナに?」 「そう、アンダーソン卿の娘」  ピクリ。と、皇帝ジオルド・ジェイ・エルディカルドの眉尻が反応した。  その様子をシャルルは見逃さずに「そういえば、フィオナの父君はお父上の元騎士でしたね」と声を掛ける。 「…ジェイラスか。懐かしいな…」  ジオルドは懐かしそうに天井を仰いでいた。 「そのフィオナだが、すごく既視感のある女性で…俺、気になって午後も彼女について考えていたんだが…」  ロイドが思案顔でそう言いかけると、彼の隣で食事をしていた皇太子妃が「もうっ」と拗ねた声をあげた。 「ロイド様。私以外の女性のことをずっと考えていたんですの?」 「ごめんって。俺が愛しているのは君だけだよ」  拗ねる妻にロイドはデレた表情で宥める。皇族にしては珍しい、恋愛結婚の皇太子夫妻はまだ新婚ということもありラブラブだ。 「まぁ、ロイド様ったら! 私もです」 「アリーシャ。今夜は君を…」  皇后がコホンとひとつ咳払いをする。 「うん…それで、さっき思い出したんだよな」  気まずそうな表情を浮かべるも、気を取り直してロイドが話を再開させた。 「なにを?」  なによりもフィオナについての話題だったので、シャルルは兄へ食い気味に質問する。 「俺がまだ3…か4才くらいの時だったか、ある女性に何度か絵本を読んで貰ったことがあるんだよ」  ロイドは昔を何とか思い出そうとしている様子で話を続ける。 「おぼろげにしか覚えていないけど…すごく優しくて、綺麗な人だった気がする。どこかの貴族令嬢だったような気もするし、使用人だったような気もする。とにかく、フィオナはその人にどことなく似ている気がしたんだ」 (…僕がまだ生まれていない時の、皇宮の話)  シャルルは、そうなんだ。と相槌を打ちながら考える。 「…その人は今どこに?」 「さぁな。気付いたら、城からいなくなってた」  なんとも締まらない話だが、シャルルはもしかするとフィオナの母親かもしれないなと思った。 (彼女の母は平民だと聞いているけど…もしかすると、ここで働いていた過去があるのかな?)  好きな子のことは、その本人よりも詳しく知っておきたいと思うシャルルは、調べてみる価値はありそうだ。と、自分の持てる情報網をフル活用する気でいた。  頭の中では計算しながら、澄ました顔で食事を再開させるシャルル。  当時は皇太子ではないにしろ、それでも皇子のロイドに直接本を読んでやれる程の地位にその人はいたということ。 (場合によっては、僕とフィオナの未来にとっていい結果になるかもしれない)  そう思うと、自然と笑みがこぼれる。 「シャルル。何かいい事でもあったのか?」  すかさずロイドに指摘され、シャルルは今自分が自然と笑っていた事に気がついた。 「あったというか、これから起こる…かな」  シャルルの返事にロイドが不思議そうな顔をする。 「明日は、何をしようかなって考えてた」  明日の護衛はフィオナだ。 (本当に、彼女と何をして過ごそうかな?)
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