伍 皇族と騎士

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「お父さ…父は、亡くなられた皇女様の護衛をしていたのですよね?」 「……あぁ、私がジェイラスに命じた」  フィオナは思った。皇帝陛下直々の命ならば、それだけ父は陛下から信頼を得ていたのかもしれないと。そう思うと、とても嬉しかった。 「皇女様はどんな方だったんですか? 生前、父は護衛していたとだけ話してくれたのですが、詳しくは何も教えてくれなかったので…」  父の昔の思い出が詰まった皇宮。フィオナはジェイラスと同じ場所に立った時、父の騎士人生の最後まで守り続けたという皇女…リリアーヌ皇女の事が気になって仕方なかった。  皇帝陛下に亡くなられた妹君の話を聞こうとするなんて、不躾なことかもしれないけれど…でも、この城には一つもリリアーヌの肖像画すらも残されていなかったのだ。 「…………」  ジオルドの表情に影が差す。フィオナは慌てて訂正した。 「あの、好奇心で尋ねた事なので、お答え出来なければ……申し訳ございません」 「いや、いいんだ…」  落ち込むフィオナに、ジオルドは彼女の肩に軽く手を乗せて言う。 「あの子の話はもう何年も話していなかったからな。久しぶりすぎて、何から話そうかと悩んでいただけだ」  ジオルドの言葉にフィオナはホッとした。 「リリアーヌは、とてもお転婆な子だった…突拍子もない事を言い出したり、行動力はズバ抜けてある子だったから、私やジェイラスはいつも振り回されていた」  ジオルドは、ふふ。と笑みをこぼしながら昔を思い出しているようだ。 「な、何故…この城にはリリアーヌ皇女様の肖像画が一つも無いのですか?」 「それは……あの子が死んだ時に、私が全ての肖像画を燃やすよう命じたからだ」  肖像画は無いのではなく、皇帝陛下が燃やしたのだと知ったフィオナは、パッと目を逸らして思わず俯いた。 (何故そんな事をしたんだろう? 話を聞いている限り、皇帝陛下と皇女様の仲は悪くなさそうだったのに…)  何があったんだろう…。そう思うが、それを直接ジオルドに尋ねる勇気はフィオナには無い。 「…次の機会では、君がジェイラスの話を聞かせてくれないか?」  少し微妙な雰囲気になってきたことを察したジオルドは、切り替えるようにとある提案をしてきた。  『次の機会』と言われたフィオナは顔を上げると目を丸くしてジオルドを見た。 「ジェイラスと君と、そして母親の…君たちの家族がどう過ごしてきたのか話を聞きたい」  フィオナはジオルドの優しい笑顔のおかげで当初よりは緊張していなかった。「私でよければ、喜んで」と答えた時に自然と笑顔を浮かべていた。 「……確かに、似ているな…」  フィオナの笑顔を見たジオルドは、その目の奥に何かを灯しながら小さく呟いた。 「この事は私とフィオナ、二人の秘密だ。シャルルが知れば面倒なことに……いや、息子にこんな感傷的な父の姿を知られたくはないからな」  本音をそれっぽい言い訳に言い直してジオルドはフィオナにウインクする。フィオナはクスクスと笑った。 「…さぁ、もう行きなさい。今度は私の庭園でゆっくり会おう」  ジオルドの言葉にフィオナは頷いてから立ち上がる。 「今日はありがとうございました。では、また」  明るい笑顔で頭を下げてから、フィオナはシャルルの元へと走ったのだった。
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