伍 皇族と騎士と恋心

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 * 「シャルル殿下、おはようございます」 「おはよう、フィオナ」  フィオナが主人の部屋に入ると、今しがた起きたばかりのシャルルが欠伸をしながら挨拶を返してきた。 (…寝起きなのに、美しい…!)  フィオナは任命式の日の夜から、シャルルのふとした仕草を見るたびに胸がドキドキと高鳴ってしまう病気に侵されていた。  朝の準備にメイド達が慌ただしく部屋の中を動き回る中、フィオナは頬を赤らめながらも気合いを入れ直して端の壁沿いに立つ。  ドキドキしてしまうのは仕方のないことなのだ…なんたって、シャルル・ド・リュカディオンはこの国最高の美貌を持つ美しい少年なのだから…。  フィオナはメイドに囲まれるシャルルの様子を見つめていた。  シャルルが何かをメイドに話し、そしてメイドが彼の寝巻きの前ボタンを外すとシルクの寝巻きがスルスルと彼の肌を滑りながら落ちていく。 「っ!!」  フィオナは思わず息を止めて顔面に力を入れた。こうでもしないと、鼻血が出てきてしまいそうだったから。  シルクの向こうから現れたのは、シャルルの白くて綺麗な素肌だった。少年らしく、まだ華奢な肩が現れて柔らかそうだけれど程よく引き締まった二の腕が姿を現す。  最近、シャルルが体を鍛え始めたと聞いていたが、この中性的な躯体の完璧な美貌が失われるのはこの帝国にとっての損失かもしれない…と、フィオナは本気で思っていた。  シャルルのお着替えシーンに、フィオナは耐えられなくなって思わず護衛対象から顔を逸らす。 (うぅぅ。私より年下で、それに男の子なのに…何なの、このあふれる色気は!?)  フィオナの他の三名が護衛に当たる時、シャルルは基本的に全ての身嗜みを整えた上で朝彼らをで迎えるらしい。何故かフィオナの時だけシャルルの朝はゆっくりなのだ。  それに今日はジオルドのこともあり、到着がいつもより遅れたというのに…シャルルは起きたばかりだし…何故だ。  毎回見せられるシャルルのあまりの色香に、フィオナは少し前ヒメロ達に訴えた事があった。 『シャルル殿下のお着替えのご様子が…私にはあまりにも目に毒でして…』  だから朝一番の護衛から自分を外してくれないか、という訴え。 『お前なぁ…何、自分の欲求不満をシャルル殿下のせいにしてんだよ』  と、アダルに呆れられながら言われた。ヒメロやヴァンは何も言わずに苦笑している。フィオナは、自分が欲求不満だからシャルルに対してこのような不遜な気持ちを抱いてしまうのか…と、ショックを受けた。  自分に騎士としての心構えが足りなかったのだと…馬鹿みたいに真面目なフィオナは自分を責め、そして精神力を鍛えなければ、と、今ここにいる。 (でも、やっぱり…無理かも…!)  いくら心を強く持とうとしても、相手があの美貌の天使シャルルならそんなものは無に等しい。 (普段、騎士訓練所で男性の裸体に慣れる訓練だってしているのに…)  フィオナは訓練所で剣術とは別に、他の騎士達が上半身裸で訓練に励む様子を凝視しては耐性を付けて精神力を鍛えるという訓練も自主的に行っていた。  しかし成果は…あまり、ない。むしろ、最近ではその他の騎士達がカカシに見える時すらある…恐怖だ…。 「——フィオナ」  シャルルに呼ばれたフィオナはハッと我に返り目を開いた。 「こっち向いて、フィオナ」  シャルルの言葉…。フィオナはゆっくりと顔を正面に戻して自分の美しい主人に目を向ける。 「ちゃんと僕のことを見ててよ」  窓から差し込む朝日を浴びる神々しいまでに綺麗な男の子が自分を見つめながら微笑んでいる。 「…護衛騎士が護衛対象から目を逸らして、どうやって護衛するの?」 「は、はい…申し訳ありません…!」  フィオナは今日も、シャルルからは逃げられないようだ。
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