伍 皇族と騎士と恋心

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 フード付きの黒いローブを着込んだ二人は、コソコソと城壁の側に来ていた。 「で、でで殿下、いいですか? こ、これより先は城外となりますので、く、くくれぐれも私から離れませんようにっ…!」 「フィオナ、落ち着いてよ…」  緊張のあまり青褪めた顔で震えているフィオナに、シャルルは苦笑いを浮かべていた。  ここに来るまでにも何度、城の者に見つかりそうになりヒヤヒヤしたことか。フィオナのチキンハートはもう既に瀕死の状態に近いのだ。 「とにかく、この城壁を越えます!」  フィオナがサッと手のひらを上にして両手を前に出した。その緑色の目は、さぁ、どうぞ。と、言っている。 「……………」  気の進まないシャルルは少しばかり嫌そうな顔をして沈黙したが、期待した目で見てくるフィオナに負けて仕方なく彼女に近付いて行った。 (これも惚れた弱味、か…)  諦めにも近い気持ちで小さく息を吐いたシャルルだった。 「……これ、絶対に僕が横抱きにされないとダメなの?」 「え? あ、はい、もちろんです…!」  シャルルを横抱きに持ち上げながら、フィオナはギクリとした顔で答える。本当は背中におぶってもいいのだけれど、何となく、シャルルをお姫様抱っこしたいフィオナだった。 (だって、シャルル殿下はお美しいからお姫様抱っこが似合うんだもの!)  そうとは口が裂けても言えないフィオナは、口を閉ざしていた。 「で、では、跳びますね…?」  フィオナは腕の中のシャルルに伺いながらも、雷魔法を脚に纏う。シャルルがコクリと頷いたので、彼女は雷の力を借りて超跳躍を何度か繰り返し、城壁の壁を蹴り上がりながら数メートルある城壁の頂上に着地した。  戦闘ではスピード上昇のために使用する雷魔法を、今は足の筋肉に集中して使用することで一時的に爆発的な筋力を得られるのだ。  酷使すると筋肉を痛める恐れがあるが、少しだけなら大丈夫だろう。 「…ふぅん、なるほど…」 「シャルル殿下?」  何やら思案顔でフィオナの雷魔法を観察しているシャルル。 「器用な魔法の使い方をしてるね。センスも必要そうだけれど…うん、どうにか僕にも出来そうかな…」  独り言のように呟くシャルル。フィオナはそんな彼を何となく眺めていたら、ふとシャルルが顔を上げてこちらに目を向けたのですぐに目が合った。 「…僕もその雷魔法の使い方、習得してみせるよ」 「え?」  フィオナは目を丸くする。そんな彼女にシャルルは愛らしくニコッと笑った。 「その時は、フィオナが僕に抱かれる番だからね」  そして愛らしい笑顔から色気のある表情に早変わりしてシャルルが言う。  フィオナはドキリとするが、その場では何も答えずに代わりに素早く城壁を降りて腕の中のシャルルを丁寧に地面に下ろしたのだった。 (…この心臓のドキドキ、シャルル殿下に伝わったりしてないかな…?)  主人に対して高鳴ってしまうこの心臓を知られないようにするだけで必死なフィオナ。自身のこの不遜な感情を、シャルルに知られたくない…。  しかし、フィオナのそんな気持ちにはお構いなしに、衣服の乱れを整え終えたシャルルは彼女に手を伸ばしてこう言うのだ。 「さぁ、フィオナ。ここは城外だよ。僕が君から離れないように、手を繋ごうか」  その眩しいくらいに誘惑な笑顔は、あまりにもフィオナの心を掻き乱すのだった。
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