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シャルルの命を受け、彼と手を繋いで街中を歩くフィオナは周りを警戒するために目を向けつつも、緊張して身体が強張っていた。
「あははっ。フィオナったら、手と足が一緒に出てるよ」
隣では楽しそうに笑うシャルル。フィオナはこの無条件に赤くなってしまう自身の顔を彼に知られないようにフードを深く被り直して顔を隠した。
すると、少しだけムッとした表情を浮かべるシャルル。フィオナが顔を隠したことが気に入らなかったのだ。
「……ダメだね」
「え?」
「こんな格好じゃ、いつか僕が皇子だと平民にバレて大騒ぎになってしまうかも…」
シャルルの言葉にフィオナも改めて周りに目を向けると、行き交う人々の視線はチラチラと自分たちに向けられている。皇族とまではいかないだろうが、貴族だとは思われている視線だ。
「きっとこのローブが目立つのだろうね」
「でもこれを脱いだら、それこそ知られてしまいますよ…」
何を言い出すのかと、不安そうな顔で主人を見つめるフィオナ。そんな彼女に「大丈夫。僕に考えがある」と、シャルルは自信のある顔で笑ってみせた。
「平民の服を買ってそれに着替えよう。そうすれば目立たないよ」
「……えぇ!?」
フィオナが驚いている間に、シャルルは一歩前に出て彼女の手を引き歩き始めた。
*
二人がやって来たのは、中流洋裁衣服店だった。オーダーメイドで服を買う貴族とは違い平民たちは既存服を買う。同じデザインの服をまとめて大量に製作することで、一着あたりの単価が安価となるのだ。
ここはそんな既存服を売る大型店だった。
「いらっしゃいま……」
シャルルとフィオナが店内に入ると、一人の男性店員が笑顔で声を掛けてきたのだが、二人の黒いローブを着て顔を隠すというまるで怪しい姿を見て固まっていた。
「あ、あの…私たちは怪しい者ではありません。服を買いにきたのですがっ…」
怪しむ表情の店員に慌てて自分たちの目的を話そうとするフィオナ。ますます店員の目は疑心を含んだものとなり…シャルルがずい、と、フィオナと店員の間に入る。
「平民が着るような服が二着欲しいんだ。僕たちの素性が分からないように…ねぇ、察してくれるでしょ?」
そして、フードから少し顔を出してシャルルは店員の男を見た。
シャルルの美貌に思わず見惚れる店員だったが、なるほど。と、理解する。年頃なお貴族様のお忍びデートなのだと理解したのだ。
「…そういうご事情であれば…どうぞこちらに。私がいくつか衣服を見繕ってお持ち致します」
店員は気を取り直すようにコホンと軽く咳払いをしてから、店の奥にある個室へとシャルル達を案内したのだった。
「——わぁ、フィオナ。すごく可愛いよ!」
「あ、ありがとうございます…でも、この服は私には可愛すぎると言いますか…」
店員が持ってきてくれたいくつかの服の中から、シャルルが選んだ服を着てみたフィオナ。
シャルルがフィオナに選んだ服は白いレースの付いたブラウスに、落ち着いた色合いの赤いチェック柄のワンピースだ。何とも女の子らしい服である。
「そんな事ない、よく似合ってるよ」
と、心の底からの笑顔をシャルルに向けられて、これ以上は否定できなくなるフィオナ。
(シャルル殿下ったら…女の子のこういう服装が好みなのかな…)
フィオナが膝下丈のスカートをヒラヒラさせながらそんな事を思っていると…。
「普段のシンプルな出立ちの君も素敵だけれど、こういう可愛さを全面に出した服を着たフィオナも新鮮でいいね!」
次はあの大人っぽいロングスカートを着てみてよ。と、言葉を続けるシャルルにフィオナは苦笑いを浮かべた。
(…いや…ただ私で遊んでるだけ…?)
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