伍 皇族と騎士と恋心

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「っ、シャルル殿下!」  フィオナは叫びながら人混みを掻き分けると、男たちの後を追って路地裏へと入っていく。 「!?」  しかし、すぐに足を止めるフィオナ。路地裏に入ってすぐのところで、誘拐犯の仲間らしき男たちが待ち構えていたからだ。 「あの貴族の坊ちゃんのことは諦めな」  一人の男がニタリと笑いながらナイフを構えた。まさか、貴族どころか皇族とは微塵も思っていない誘拐犯たちはシャルルを誘拐して人買いに売ろうと企んでいたのだ。 (私の、私のせいだ…! 私は護衛なのに、シャルル殿下から目を離してしまった!)  責任感で顔面蒼白になりながら、ガクガクと震える手で抜刀するフィオナ。そんな彼女の姿を見て、男たちは怯えていると勘違いし馬鹿にして笑った。 「手が震えてるぞ、嬢ちゃん?」 (…やっぱり私一人で護衛なんて…どうしよう、シャルル殿下の身に何か起きたら…) 「このお嬢ちゃんも高く売れそうだな。…おい!」  一人の男が仲間に合図を送る。どうやら、シャルルだけでなくフィオナも人買いに売ることがたった今決まったらしい。  ジリジリとにじり寄る誘拐犯たちに、フィオナが緊張した面持ちで剣を構えると…。 「フィオナ、しっかりしろ!」  と、聞き慣れた頼もしい声とともに、一人の騎士の男が空から降ってきた。 「今すぐに追いかければ、まだ十分間に合う!」 「ヴァンさん!?」  その男はヴァンで、大剣を片手で振り回しては誘拐犯たちを数歩後退させて距離をとった。  突然現れた屈強そうな騎士に、誘拐犯達も戸惑いと恐れを滲ませている。  実は、シャルルから外出の旨を伝え聞いていたヴァンは、フィオナの実力を疑っている訳ではないが…ただ、親心というか兄貴心で心配してこっそり二人の後を付けながら護衛していたのだ。  ヴァンはこの誘拐犯達の事も気付いていたのだが、自分が出しゃばらずに経験を積ませるためにもまずはフィオナに任せようと後手に回ってしまっていた。 「ここは、俺が受け持つから」 「ヴァンさん、私…」  ヴァンの登場に安心したと同時にそんな自分が護衛失格なような気がして自己嫌悪に陥るフィオナ。不安そうな声でフィオナはヴァンの名を呼ぶ。 「フィオナ、しっかりしろ」  暗い顔で剣を構えたまま立ち尽くすフィオナに、ヴァンは力強く言った。 「お前の機動力があれば、大丈夫だ。自分のミスは、自分で取り戻せ!」  ヴァンに喝を入れられて、フィオナはハッとする。 (そうだ。何よりも、私の反省なんかよりシャルル殿下の安全が最優先だ…!)  反省は全て終わってから全力でする! フィオナは「ここをお願いします!」と、ヴァンにこの場を任せて得意の雷魔法を使って超跳躍をして屋根の上に登った。  誘拐犯たちが恨めしそうな顔でフィオナの姿を目で追いかけて、彼女の後を追おうとしたのでヴァンが大剣を彼らの進行方向先に投擲(とうてき)し、それを阻んだ。 「武器を手放すなんて、馬鹿なのか?」  冷や汗をかきながらも誘拐犯がヴァンを振り返り言うと、ヴァンは両手拳を胸の前でぶつけてから不敵に笑った。 「殺して欲しくなったら言え。その時はその大剣を使ってやる」  大通りから貧民街に繋がる路地裏は入り組んでいて、土地勘のない慣れていない者であれば簡単に迷ってしまう。だからフィオナは屋根の上からシャルルを抱えて走る誘拐犯を追跡する事にした。 「殿下は11時の方角だ! 行け!」  下からヴァンの声がして、フィオナは頷くとその方角の方へと全速力で駆けていった。
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