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「あら? お姉様、その格好は…」
「フィオナったらまたそのような格好をして。貴族令嬢としての自覚が本当に無いのね」
カサンドラはフィオナを嘲笑うが、その横でジュリアンナは期待に満ちた目でフィオナを見ていた。
「今から剣を習いに行くの?」
「うん、トニーさんのところへ行くわ」
ジュリアンナの質問にフィオナは明るく笑って答えた。
トニーとは、アンダーソン男爵領にある傭兵協会のギルド長トニー・ウィーバーの事であり、フィオナの父ジェイラスの唯一無二の親友だった。
ジェイラス亡き今、フィオナの剣の師匠は父と肩を並べて魔獣を討伐していた傭兵のトニーだった。
「そもそも、女性が野蛮な剣など…」
「私も行くわ!!」
カサンドラが大きな息を吐きお小言を話し始めようとしたら、隣のジュリアンナが勢いよく言った。
「リオンもいるの?」
「え…うん、多分いるよ。トニーさんの息子だし」
するとジュリアンナの目は一層輝いた。どうやらジュリアンナのお目当てはトニー・ウィーバーの息子リオン・ウィーバーのようだ。
カサンドラはジュリアンナの様子に嘆かわしそうに頭を抱えていたが、結局は可愛い娘の我儘に折れてジュリアンナの外出許可を出したのだった。
*
フィオナと並んで日傘を差して歩くジュリアンナだったが少し疲れた顔をしていた。
「…お姉様、日傘を持っていて。疲れたわ」
と、白とピンクのレースがあしらわれた可愛らしい日傘を押し付けられたフィオナは驚きつつも妹の我儘を受け入れて代わりに持ち、日差しが当たらないように日傘を傾けてやった。
そうして歩いているうちに目的地付近にまで到着する。
「あ…!」
ジュリアンナが誰かを見つけたようだ。フィオナも顔を上げて妹の視線の先を見ると、そこにはこちらを待っていた様子のリオンの姿が見える。
「リオン!」
ジュリアンナが突然走り出し日傘の下から飛び出したので、フィオナは慌てて彼女を追いかけた。
「…ジュリアンナ様もいらっしゃったのですか?」
リオンは少し目を丸くして言いながら、やっとジュリアンナに追い付いたフィオナに目を向ける。
貴族令嬢が使う、綺麗な日傘を差したフィオナの姿を見て…。
「…なんだか…」
リオンは少し顔を赤らめながら呟いた。
「…そうしていたらフィオナはやっぱり貴族令嬢なんだなって思うよ」
そしてリオンは照れくさそうに笑って続ける。
「その…とても似合ってる」
フィオナは今まで異性にこのように褒められた経験がなかったので、思わず顔を赤くして固まるしかなかった。
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