陸 『会いたかった』

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 ぞろぞろと列を成して入場してくる騎士達。ちょっとしたパレードだ。そのパレードを見送るように、後方では一仕事を終えたような顔をしたアダルが立っていた。  実は、アダルは個別にフィオナから手紙を受け取っており『どう頑張っても間に合わないので、アダルが率いる魔法騎士隊を迎えに寄越して帝都まで転移させて欲しい』と頼まれていたのだ。 「…これは貸しだからな」  相変わらずフンと鼻を鳴らして悪態をつくアダルだったが、部下だけでなく自らフィオナ率いる討伐隊の迎えに行くくらいには協力的だった。アダルも、フィオナの帰りが間に合わないと知り落ち込むシャルルの姿を見て思うことがあったのだろう。  その騎士達の顔ぶれを見ると、彼らはあの魔獣討伐前線で活躍した者たちなのだと、その場にいる全ての者がすぐに悟った。 「フィオナ・アンダーソン、並びに魔獣討伐隊の総勢40名の騎士が貴方の元へ帰還いたしました」  フィオナが片膝を付いて傅くと、後ろで整列していた騎士達もまたシャルルに傅く。そんな彼らを眺めながら、シャルルは胸が熱くなるのを感じた。 「我が主君、シャルル・ド・リュカディオン皇子殿下。我々の邪竜討伐の功績を忠誠心とともに貴方様に献上いたします」  それは、フィオナ達からシャルルへの贈り物。 「成人のお誕生日のお祝いを心より申し上げます」  顔を上げて、ニコリと笑ったフィオナ。昔のあどけなさは凛々しさとなり、今ではすっかり魅力的な女性へと成長している。  それはシャルルも同じ事で、二年前と比べてずいぶん伸びた身長とシャープになった顔つき、そして逞しくなった体格…愛らしい天使から、美しい男神へと成長を遂げているのだ。  フィオナとシャルルの視線が重なると、お互いがお互いに目を奪われていた。 (フィオナ、綺麗になったな…) (やっぱり…貴方は素敵な人ね、シャシャ)  フィオナと騎士達の美しい忠誠心に周りの貴族達は拍手する。まるで一つの観劇の見ている気分になり、皆が目を輝かせながら称賛の拍手を送った。 「素晴らしくも優秀な騎士を持ったな、シャルル」  そんな中、皇帝ジオルドがやって来てシャルルの隣に立つと、父は息子の肩に軽く手を置きながら微笑んだ。 「さて。我が愛する息子が最高の贈り物を受け取ったところで、そろそろこのパーティーもクライマックスといこうではないか」  息子の成人の誕生日パーティーともなるとジオルドも喜ばしくて仕方ないのか、いつもより浮かれた様子で周りの貴族へ宣言するように言う。 「シャルルよ、お前が自分で今日のダンスパートナーを決めなさい」 「はい、父上」  ジオルドの優しい目にシャルルも微笑み返して頷いてみせる。  このダンスパートナーに選ばれるということは、すなわち、シャルルの結婚相手としての最有力候補となるわけだ。  マリエンとレンレ、どちらが選ばれるかによって、政治的勢力や情勢も大きく変化する。貴族達は緊張した面持ちでシャルルの選択を待っていた。  シャルルは歩き始める。マリエンとレンレが期待した瞳で彼を待つ中、シャルルは…。 「今日という喜ばしい日に、どうか僕と踊ってください」  片膝を付き、シャルルが乞うように手を差し伸べた先に立つ人物を見て、貴族達は驚愕した。 「……え…?」  ダンスに誘われた当の本人すらも、戸惑いと驚きの声をもらしている。 「フィオナ・アンダーソン男爵令嬢、そして僕の忠誠の騎士。僕はどうしても君と踊りたい」 「わ、私ですか? でも、私は今制服ですし、ドレスなんて…」  それに人に見せられるほど上手ではありません…と、焦った様子で遠慮するフィオナに、シャルルは困ったように笑った。 「僕に恥をかかせるつもり? いいから、僕の手を取ってよ」  うぅ、と恥ずかしそうに赤くなった顔を顰めるフィオナ。 「この格好で皇子殿下のダンスパートナーを務めるなんて、相応しくないと思いますよ…?」  そう言いながら、恐るおそるとシャルルの差し出した手へと手を伸ばす。  待ちきれないシャルルは、こちらからフィオナの手を取り、そしてグイと彼女の腕を引いた。 「君がどんな姿をしていようが関係ない。僕は『フィオナ』と踊りたいだけだから」  あっという間にシャルルの手がフィオナの細い腰に回されて、グッと引き寄せられる。  近くなったシャルルにフィオナが緊張でドギマギしていると、彼は嬉しそうに笑いながら言った。 「ずっと会いたかったよ、フィオナ!」  フィオナは思わず目を丸くして、そして緊張の抜けた顔で笑うと自分も素直になろうと思った。 「私も。会いたかったです、シャシャ…」  周りには聞こえないように、小さな声で。
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