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(…自分がこんなにも嫉妬深い男だとは思わなかったな)
はぁ。と、落ち込む気持ちから思わずため息をついてしまうシャルル。
(男としての余裕がなくて、恥ずかしい限りだよ…)
フィオナが他の男とダンスの練習をしていたと聞いた瞬間、苛立ちと悔しさでいっぱいになってしまった。
本当はどんな事でも余裕の笑みを浮かべて受け止めてあげられるような…そんな頼り甲斐のある大人な自分になりたいのに。要は、フィオナの前では最大限に格好付けたいというわけだ。
パーティー会場を抜けて、サファイア宮へ向かう足取りで隣を歩くフィオナに目をやるとすぐに彼女と目が合った。…見られてた。
シャルルはますます自分が情けなく感じる。
(今、絶対に僕が落ち込んでた姿を見られたよね…)
格好良い姿を見せるどころか、男として情けない姿を見られた事にシャルルは、恋はままならないな。と、思った。
(この僕が、彼女の前だとこんなに情けない男になるなんてね)
しかし同時に、彼女相手ならそんな自分も嫌いじゃないな。とも思うシャルルであった。
「シャルル殿下」
フィオナと歩いていると、後ろからヴァンとヒメロ、そしてアダルが追いかけてきた。
「護衛の私たちを置いて、パーティー会場から出ないで下さい」
少し非難めいた口調でヒメロが言うと、シャルルは誤魔化すような笑顔を浮かべながら「あ、ごめんね」と軽く謝罪をする。
あのまま会場に残っていたら、次は自分と踊れとマリエンとレンレが迫って来そうな勢いだったので…とは、言わずにシャルルは言葉を飲み込んだ。
「久しぶりだなぁ、フィオナ!」
そんな中、ヴァンが親しみを込めてフィオナに笑顔を向けながら言った。
「お美しくなられて…お元気でしたか?」
「相変わらず緊張感のない馬鹿面してるな」
ヴァンに続いて、ヒメロとアダルもフィオナに声を掛ける。
「はい、皆さんもお元気そうで……って、アダル。私の顔がなんだって?」
二年ぶりだが、彼らの中に他人行儀な雰囲気はなかった。シャルル程ではないが、フィオナはこの三人とも文通を交わしてきたのだ。
「フィオナの荷物は我が屋敷でしっかりと保管しておりますよ」
「ヒメロさん、ありがとうございます!」
寮生活だったフィオナは、魔獣討伐前線に向かう事が決定してから部屋を引き払う必要があり、荷物はヒメロの屋敷に移動させて預かって貰っていた。
荷物といっても、あの頃着ていた衣服とかちょっとした小物だけだけれど…。
(二年前の服か…まだ着れるかなぁ?)
言ってはなんだが、フィオナも成長して出るところは出て…とはいかず、さほど変わりはないのだが背は伸びた。袖の長さやスカート丈は、もう合わなくなっているだろう。
「今日はもう遅いので、明日の仕事終わりにでも荷物を受け取りに行きますね」
フィオナが笑顔でヒメロに言うと、ヒメロと、何故かシャルルが含みのある笑みを浮かべた。
「いえ…フィオナには我が屋敷でそのまま暮らして貰います」
「え?」
ヒメロの言葉に耳を疑い、戸惑った様子で彼に目を向けるフィオナ。
「あー…俺もそうした方がいいと思うぞ」
思わぬ人物から、ヒメロに援護射撃が打たれた。その者はヴァンだった。
「…俺の睡眠を邪魔しようものなら覚悟しろよ」
続いて、アダルまでもがそんな事を言う。…まだヒメロの屋敷で厄介になり続けているアダルにも驚きのフィオナだったが、今はそれよりも仲間たちが見せる変な雰囲気に怪訝な表情を浮かべる。
ヴァンなんて、どこか気まずそうにしていた。
「…えーと…皆さん、何か企んでます?」
フィオナが恐るおそる尋ねると、ヒメロは笑みを深め、ヴァンはわざとらしく咳払いし、アダルはスッと目を背けた。
「フィオナ」
シャルルに呼ばれて、フィオナは彼を振り返った。
「僕からも命令だよ。君は今日からミリシアン侯爵邸で暮らすんだ」
これがシャルルの企む外堀の第一歩になるとはつゆ知らず、主人に命令されてしまったからには頷くしかないフィオナだった。
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