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1.遥香
ざあざあと降る雨が、遥香を濡らしていた。
「ああ……もうっ。やんなっちゃう」
濡れそぼつ髪を耳にかけるようにしてサイドに流し、遥香はため息を吐く。
今日は雨予報ではなかったはずなのに。
仕事帰りに駅前のスーパーに寄って、建物を出たときにはもう、雨が降り出していた。
残念ながら、今日の遥香は傘を持っていなかった。
夕立だろうか。
しばらく雨宿りをすれば止むだろうか……。
そんな考えが脳裏を掠めたものの――結局、遥香は帰宅を急ぐことにした。
仕事を終えて帰宅してから、家事をできる時間は限られている。
夕飯の時間が遅くなるのは、できれば避けたい。
そう思って雨の中に踏み出したものの……段々と雨足は強くなり、遥香はずぶ濡れになってしまっていた。
「はぁ……早く帰りたい」
赤信号の交差点で足を止め、遥香はもう一度、ため息を吐いた。
撥水加工されたエコバッグの中身は、果たして無事だろうか。
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