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「持つよ、それ」
結人はそう言って、遥香の肩からずぶ濡れのエコバッグをさっと取り上げた。
「ありがとう」
遥香は笑って、結人を見上げる。
成長期にぐんと背が伸びた弟は、遥香よりもよほど背が高い。
「結人。今日はバイト終わるの、早かったの?」
「ん?……ああ、まぁ。そうだね」
「そう」
降りしきる雨が、傘を濡らす。
雨粒が、傘の表面でくり返しバラバラと音を立てていた。
ふたりでひとつの傘に入って、遥香は結人と共に、家へ向かって歩いていく。
「――ごめんね、姉さん」
しばらく歩いたあとで、ふいに結人の声が降ってきた。
その言葉の意味がわからずに、遥香は、ぱちぱちと瞬きをして首を傾げた。
「俺が――もっと早く、迎えに来ていれば。もっと早く……そしたら、きっと……」
そこで言葉を途切れさせた結人は、形の良い眉をぎゅっと寄せた。
「……きっと、姉さんをこんな目に遭わせたり、しなかったのに」
そう言った結人の声には、どこか悔しさのような感情が、滲んでいるような気がした。
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