1.遥香

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「持つよ、それ」  結人はそう言って、遥香の肩からずぶ濡れのエコバッグをさっと取り上げた。 「ありがとう」  遥香は笑って、結人を見上げる。  成長期にぐんと背が伸びた弟は、遥香よりもよほど背が高い。 「結人。今日はバイト終わるの、早かったの?」 「ん?……ああ、まぁ。そうだね」 「そう」  降りしきる雨が、傘を濡らす。  雨粒が、傘の表面でくり返しバラバラと音を立てていた。  ふたりでひとつの傘に入って、遥香は結人と共に、家へ向かって歩いていく。 「――ごめんね、姉さん」  しばらく歩いたあとで、ふいに結人の声が降ってきた。  その言葉の意味がわからずに、遥香は、ぱちぱちと瞬きをして首を傾げた。 「俺が――もっと早く、迎えに来ていれば。もっと早く……そしたら、きっと……」  そこで言葉を途切れさせた結人は、形の良い眉をぎゅっと寄せた。 「……きっと、姉さんをこんな目に遭わせたり、しなかったのに」  そう言った結人の声には、どこか悔しさのような感情が、滲んでいるような気がした。
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