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そして同じく体力自慢といえば、大柄な身体でおとなしく隅に縮こまり、取り分け係をやりながらチビチビとビールを飲んでいる大吾郎だ。実家は千葉市だが、大学のキャンパスが世田谷にあったため進学と同時に都内で一人暮らしを始め、現在は江東区の職場まで地下鉄1本で通える地域に住んでいる。 ずっとバスケをやっていた彼は、子供の頃からなじみのあるスポーツ用品メーカーに就職した。彼もまた試用期間中ではあるが、大学の専攻を活かしてスポーツ工学の研究部門に配属されたそうだ。 「ゴローって保父さんとか先生とかになるかと思ってた」 「子供にすごい好かれやすそうだもんね」 天音と珠希が言うと、「俺あんまりまとめるの得意じゃないからな」と控えめに笑った。 「何言ってんの、キャプテンだったのに」 「でもゴローはちゃんと好きなこと活かせてるからすごいよな。バスケはまだやってんのか?」 耀介が問うと、「ああ……入社してからは忙しくて出来てないけど、慣れたら知り合いのチーム入るつもり」と言った。 ポツポツとどこかぎこちなく話すのは、仲間たちとの再会で緊張しているのではない。サラと2年ぶりに顔を合わせたせいだ。恋人ではなくなってからほとんど連絡も取れなかったので、もはや友達でいていいのかもわからなかった。 珠希から招集がかかった際、サラは天音に「ゴローと会える?」と問われたが、「別に喧嘩別れとかじゃないから平気」とは言っていた。明確な別れの理由はあったが、彼を嫌いになったわけではないとのことだ。 だが関係が変わったのは彼らだけではない。高鷹と珠希も同じだ。もとより彼らは"会えない恋人"より、"会える恋人"を望んで気軽な気持ちで繋がった関係であった。 思いのほか情が深くなり同棲のような寮生活を経たが、卒業の春に珠希が告げた「もう終わりでいんじゃない?どうせ大学で2人とも浮気するだろうし」という簡単な言葉で終焉を迎えたのだ。 「うん、お前ら(君たち)は絶対に続かない」とその現場に居合わせた仲間たちも賛同していたので、あまり悲恋的な終わり方ではなかった。3年は長かったし、貴重な高校時代を互いに捧げ合ったことで、高鷹も「確かにもういいかもな」という気持ちになったそうだ。 そして2人は友達に戻り、そのあとの大学生活の中で人知れずサラと大吾郎も別れ、現在の6人は高校1年生の新学期の関係に"リセット"された状態であった。
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