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誤解は解け、新たな不名誉を得、嘘は鉄壁に守られた。 そのあと珍しく酔うまで飲んだ天音が「今日はもう専務の顔は見たくない。別々で帰る」と泣くと、珠希に「じゃあ僕んちに帰る?」と言われたので、タクシーに放り込まれ赤坂駅近くの珠希の家に向かった。 サラもやはり酔っていたようで、「助け船の出し方は悪かったけど、君もいい加減くだらないこだわりなんか捨てなよ。ていうか少し頭冷やせば?」となぜか逆ギレで喧嘩を売り、大吾郎がなだめて早稲田の自宅まで連れ帰り介抱することになった。 ー「社長と専務を喧嘩させちまったなあ。明日から会社大丈夫か?」 4人のタクシーを見送った高鷹と耀介は、そのままはしごをすることにした。金曜夜の繁華街は男女で賑わうが、男2人でメキシカン風のバーに入り、樽をテーブル代わりにした屋外のスタンディング席で向かい合った。一杯目はテキーラショットだ。ビールグラスも早くも2つ置かれている。 「仕事でもずっと一緒にいれば、普段から思うところがいろいろあるんだろ。あいつら高校の時からべったりだったし」 高鷹が言う。 「天音は思った通りに何でも言うけど、サラは受け止め役って感じだったからな。秘書とか専務にするには適材だろうけど、サラもたまには反論とかするのかな」 「天音がワンマンにならない程度には言うだろ。つーかアイツは昔からけっこう鋭いとこついてくるタイプだぞ。でもなんか、今日のイラつきの原因は違うところにありそうな気もすっけど」 「普段から鬱憤が溜まってんだ」 「そうかもな。ま、たまには喧嘩して空気抜くのも必要だ。……それにしてもこのビールすげえ薄いな」 「な。俺は好きだけど」 「じゃーやる」 「やだよ飲みかけなんか」 「テキーラもう1個頼んで中にか」 「俺は介抱しねえからな」 店内のBGMが切り替わり、眠くなるようなレゲトンの連続再生が終わった。店員の方でも気分を変えたかったのか、曲調はガラリと変わり、店には不似合いな少し古めかしいテクノのようなエレクトリックなサウンドが流れた。この店には似合わないが、中のカウンター席にいる外国人の客たちも、シンプルなビートに合わせて身体を揺らし始めた。 「ていうかよお」 新しくオーダーしたテキーラをサブマリンにすると、耀介が「汚ねえだろ」と呆れた。だが高鷹は気にせず一気に半分飲み、ダン、とジョッキを置いた。 「カイザーってどこ行ったん?」 「………」 「だーれも触れねえけど、アレってもしかしたら俺だけの記憶に棲みついてるイマジナリーなトモダチだったんか?」 「……いや。少なくとも俺の記憶にも棲みついてる」 "Drive boy Dog boy Dirty,numb angel boy 
In the doorway boy She was a lipstick boy She was a beautiful boy and tears boy And all in your inner space boy You had hands girl boy And steel boy 
You had chemicals boy I’ve grown so close to you, boy 
And you just groan boy She said, “come over, come over" 
 She smiled at you boy..." 単調な読経のような男の歌声。英語を理解できればきっとなにかよくない洗脳をされそうだ。 「じゃあアレは俺ら2人の中に棲みついた妖精さんかあ〜?」 「まあそうだろ。ティンカーベルだ」 「バカ言うな!何であのメンツで集まって1個もカイザーの話題が出ねえんだよ!怖すぎんだろ!!」 「怖いっつーかどう扱っていいか分かんねえんだよ。だって突如外国に行ってそのまま高校辞めて、今の今まで音信不通だぞ。前代未聞すぎる退学理由だろ」 「あいつメキシコから来たとかホラ吹いてたけど、今ならマジだったんじゃねえかって気がする」 「あの突発的な行動力というかあたおかさを思えば不思議じゃねえよ。天音が迎えに行ってもかたくなに帰るのを拒んだらしいし。……でも天音とサラは何か知ってるんじゃねえか?渦川と一番距離が近かったのはアイツらだ」 「知ってて何の話もしねえのか?」 「秘密主義だから」 「そこまできたら主義じゃなくてビョーキだぜ」 「でもお前も出せなかったんだろ、渦川の話題」 「……ようやく酒が足りて切り出す気になったぜ」 「そもそも俺ら全然集まれなかったから、全員の近況を聞いたり話すのに忙しすぎたよな。あと1時間長くいたら渦川の話題も出てただろ。……ビール頼んでくる。お前もいる?」 「ああ。……アイツ生きてんのかな」 「死んでたら葬式くらいは呼ばれるだろ、さすがに」
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