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耀介が酒を注文しにカウンターに向かうと、隣のテーブルにいた2人連れの若い女が声をかけてきた。韓流アイドルのような髪型と化粧で、1人はミニスカートと、もう1人は体のラインにぴったりと沿ったスカートを履いている。 「お兄さんたち、2人で飲んでるんですか?」 「ん?……ああ、そう」 「この辺の人なんですか?」 「地元は川崎」 「川崎?」 「神奈川な」 「へえ」 反対隣の席にいる、いかにも女をひっかけにきたかのような会社員風の男たちがチラチラと彼女たちを見ている。きっとその視線を逸らすために、あえてガラの悪そうなこの男に話しかけたのだろう。高鷹がじろりと男たちを見やると、彼らは気まずそうに顔を逸らした。 「……それより姉ちゃんたちさあ、タバコ持ってない?電子じゃなくて紙のやつ」 「え……」 「俺もうやめたんだけど、なんか今日は1本だけ吸いてえんだ。持ってんなら1本くれ」 「ええ……何、なんか怖……」 「怖くねえよ」 「私吸わないんで」 「そっちの子は?」 「……まあ、吸いますけど」 「だよな。吸いそうな顔してるぜ」 「え?何それ」 「ホラ」 「……ウケる。カツアゲじゃん」 そう言いながらも、ミニスカートの女の方が小さなバッグからタバコケースを取り出しライターと共に1本分けてくれた。店内は禁煙だが、テラス席だけ禁煙区域の効力が弱まるらしい。都会の受動喫煙対策にまつわる謎の一つだ。 「あんがと」 「お兄さんって反社?」 「違げえわ!」 「……おーい、お前の酒」 「おお、サンキュ。ちなみにこいつは埼玉のド田舎出身」 「へえ……」 「おい、ナンパとかやめろよ。知らねえ人に迷惑かけんな」 「ナンパじゃねえよ。タバコをカツアゲしたんだ」 「もっとダメだろ!!……ていうかお前タバコ吸うのか。言ってくれりゃ普通に店内で吸える店でもよかったのに」 「いや吸わねえ。なんかカイザーを思い出したら、吸いたくなっただけだ」 「死んだみたいな言い方だな。あと吸わねえ奴の吸い方じゃねえぞ」 「まあ正確には大昔に吸っててやめたんだよ。……つーか姉ちゃん、これ重くねえか?何吸ってるん?」 「セッタです。14ミリ」 「令和でそんなもん吸ってるヤツ俺の地元にしかいねえよ。気合い入ってんな」 「俺のじいちゃんも同じやつ吸ってた気がする」 そう言うとミニスカートの女が笑い、少し警戒していたもう1人の女も少し笑顔を見せた。4人はそのまま樽をして、薄いビールをまたもピッチャーで頼み、学生時代のようなひとときの夜を楽しんだ。
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